3大益虫=カイコとミツバチ、もうひとつは?…分泌物がガムやマニキュアに
赤染料も生み出す「ラックカイガラムシ」
カイガラムシと言えば農作物を食い荒らす害虫のイメージが強いが、東南アジアなどに生息するラックカイガラムシは4000年以上前から人の役に立ってきた。樹脂や染料を生み出し、カイコ(絹)やミツバチ(蜂蜜)とともに「3大益虫」とされるが、知名度は相当劣る。そんなラックカイガラムシの効用を探った。(竹井陽平) 【図表】奈良時代の赤色系染料
雌が作る紫鉱
ガムや錠剤のコーティング、マニキュア――。いずれもラックカイガラムシの分泌物から精製された樹脂成分が使われている
ラックカイガラムシはタイやインド、台湾などに生息。マメ科やクワ科の樹木の枝に集団で寄生し、樹液を吸って成長する。生後すぐの体長は0.5ミリほど、成虫でも3~8ミリ程度だ。
雄は交尾後に死滅するが、雌は巣を作るために樹脂成分の分泌を続ける。やがて分泌物が枝を覆う「ラックスティック(紫鉱)」と呼ばれる棒状に固まったものになる。
正倉院の宝物
正倉院の宝物の一つで、過去に奈良国立博物館(奈良市)で開かれた正倉院展でも、細長くて黒い紫鉱が出展された。国内に現存する最古とされ、血流の改善や解毒の薬として扱われていたようだ。
これを細かく砕いて、枝などを除去し精製・分離すると、高性能の「天然樹脂」と赤い「色素」を得ることができる。色素は紀元前2000年頃から中国やインドなどで絹や木綿の染料として活用され始め、その後、樹脂成分が接着剤などに用いられるようになった。
樹脂成分は「セラック」と呼ばれる。
17世紀後半には、ヨーロッパでセラックをアルコールに溶かしたニスが開発され、木工家具などを塗装するようになった。この技法は、日本の漆と似た光沢を簡単に出せることから「ジャパニング」と名付けられた。摂南大学特定研究員でラック研究会主宰の北川美穂さんは「欧米ではしばしばブームになったことがある技法で、漆家具の修理にも使われた」と説明する。
人体に無害、錠剤や果物ワックスにも
樹脂は、1877年にエジソンが蓄音機を発明すると、初期のレコードの原料にも使われた。20世紀に入ると合成プラスチックに置き換わったが、人体に無害なセラックは現在でも錠剤や粒ガムのコーティングに使われ、かんきつ類の果実を保護するワックス、バイオリンの塗装などにも活用されている。