〈ファジアーノ岡山J1初昇格〉「子どもたちに夢を!」広島へのライバル意識で成長続ける、木村正明オーナーのクラブ創設からの思い
価値を高めるために必要な最大市場を見据える目
地域のクラブとして定着してきた一方で、次の30年に向けては、成長戦略が必要になる。つまり、コンテンツとしての価値を高めるための「変化」だ。 私がJリーグの専務理事として行ったのが、クラブの上場を可能にする仕組みづくりだ。米国で新興の電気自動車(EV)企業が新規上場(IPO)することで数兆円の時価総額になることがあるように、売上高や利益ではない「非財務的価値」がクラブにもある。 ポルトガルやトルコの1部に所属するクラブは、売上高は50億円強だが、時価総額はその3~4倍なのがその証左だ。例えば、自前のスタジアムを持ちたいと考える場合には、上場は有効な手段になる。決して簡単なことではないが、現状維持は衰退の始まりであり、上場はクラブの価値を高め続けるための大きなモチベーションになるはずだ。 もう一つは、海外市場の開拓だ。アジア市場の魅力を高めたいが、圧倒的な存在である欧州市場とは現状、大きな開きがある。高額な移籍金が注目されがちだが、年俸そのものは欧州のトップリーグでも平均数億円であり、ピークを過ぎたビッグネームや将来化けそうな若手選手の獲得であればJリーグのクラブも捻出できないことはない。こうした選手が5人、10人と集まれば、コンテンツとしての質や魅力が高まる。 米国のプロサッカーリーグ(MLS)に欧州の有名選手が移籍することが少なくない。居住環境の良さなどが選手にとっては魅力的である一方で、スタジアムなどプレー環境の面では、Jリーグが上回っていると、何度も現地に足を運んで感じた。やはり、チャンスはあるはずだ。 2016年、スペインの超名門クラブのレアルマドリードと鹿島アントラーズの試合は、内容も濃く視聴率は20%近くに達した。サッカーに関わる者として誇りだった。世界クラブ選手権の毎年の開催が難しくなった今、荒唐無稽かもしれないが、1つの理想は、Jリーグ優勝クラブが欧州チャンピオンズリーグに出場することではないか。 さすがにそれは無理でも、小規模な大会への出場は狙いたい。選手は海外に出られるが、クラブにもそういう機会が必要だ。より多くの国内の人に目を向けてもらうために、グローバルな視野でサッカーをとらえる発想が必須と考えトライしていた。クラブ自身が世界との差を体感できる場があれば、関心度とサッカーのレベルを格段に上げるだろう。