長野県が全国初となる「信州型フリースクール認証制度」、こだわった当事者性と納得解 学校の魅力化から学習環境の魅力化で不登校支援
認証制度の大きなテーマは「関係の再構築」
対話を重ねて納得解を作り出す姿勢は、運用が始まってからも変わらない。現在、県は有識者などで構成される認証懇談会構成員と共に、認証申請のあったフリースクールを1つひとつ訪問して現地確認を行っている。荒井氏もその構成員として、1カ月の間に申請のあった約30件をすべて訪問したという。 「フリースクールの現地確認を行う際は、運営者の方に認証制度への意見や、学校との関係に関する困り感についてもお伺いしているのですが、この時間が絡み合った糸を丁寧に解く機会になっています」 学校とフリースクール、行政の連携を促すため、今年度から2名の「不登校支援機関連携推進員」も配置した。 「必要なのは、フリースクールが学校や行政とコミュニケーションを取りたい時に情報共有を手助けする仕組み。そこをつなぐキーパーソンであり、現地確認の際にも同席してもらっています。管理職経験があったり、特別支援に造詣が深かったりと、学校、フリースクール、行政の3者の困り感を共感的に理解されている方が担当されており、課題解決に向けて丁寧に対話を行っていただけることを期待しています」 今後は、フリースクール同士、あるいはフリースクールと学校が学び合う機会なども作ってさらに連携を進めていく。 対話を重ねながら作り上げた信州型フリースクール認証制度。しかし、これは完成形ではないという。大きなテーマは、「学校、行政、フリースクール、保護者、子どもたちの関係の再構築」であると、荒井氏は考えている。 「みんなで育てていこうというのが、この制度のコンセプト。認証基準の項目も運用も、もっとよい形がある可能性があるため改善を図っていきます。これまでは学校だけが教育における課題や期待感などの全部を背負ってきましたが、そこを改善するチャンスでもあります。しかし、すべて外部にお任せするということではなく、関係の再構築だと受け止めていただきたい。 そのためにも学校の先生方にはぜひ一度、お子さんが利用しているフリースクールに行ってみて、子どもたちの表情を見てほしいです。外部の視点を得ることで、改めて学校の強みや役割をポジティブに再定義できるのではないかと思います。協働の実現にはそうしたマインドセットが必要であり、フリースクール側にも質の向上がさらに求められるでしょう。この認証制度が、その起爆剤になればいいですね」 昨年度は、長野県の「不登校児童生徒等の学びの継続支援に関する懇談会」にも、フリースクールや居場所の運営者が委員として参画。今年5月には、フリースクールや居場所の運営者たちが「信州フリースクール居場所等運営者連絡協議会」を立ち上げるといった新たな動きも出てきている。連携の動きは着実に進んでいると言えそうだ。 「日本では『教育=学校教育』という図式が強固にあるため、学校に行けなくなった瞬間に絶望してしまうお子さんや保護者も多いです。そのため不登校支援を子ども中心に考えていくならば、『学校の魅力化』から『学習環境の魅力化』へという流れができるべきで、状況に応じて学校以外でも学べる『クッション』のような存在を仕組みとして整えておくことは大人の責任ではないでしょうか。そうしたセーフティーネットは公教育の体力を強くしていくのではと個人的に思っています」 今後は、シンポジウムや集いを開催するなどさらに認証制度を開かれたものにしていきたいと荒井氏は語る。「みんなで育てていく制度」という認証制度がどう進化していくのか、子どもたちを取り巻く学びの環境がどう変化していくのか、その動向は今後も注目を集めそうだ。 (文:吉田渓、注記のない写真:長野県提供)
東洋経済education × ICT編集部