長野県が全国初となる「信州型フリースクール認証制度」、こだわった当事者性と納得解 学校の魅力化から学習環境の魅力化で不登校支援
「子どもを真ん中」に考えた認証基準
具体的には、一定の基準を満たしたフリースクールなどの民間施設を県が認証し、職員の人件費や必要経費を補助するだけでなく、研修や情報発信、連携促進といった支援も順次行っていく。 フリースクールの運営者は、活動の特徴に基づき「居場所支援型」と「学び支援型」のどちらかを選んで申請。書類審査や現地調査を経て認証が下りると、認証は3年間有効となる。 申請者が法人か個人かは問わないが、認証基準は13項目ある。いずれも「子どもを真ん中に考えた時にどういう場所であるべきか」という考えの下、設定されたという。以下は主な認証基準をまとめたものだが、「居場所支援型」と「学び支援型」という類型によっても一部基準を変えている。 認証基準の設定は非常に苦労したと、荒井氏は振り返る。例えば資格の有無は、大きな論点になったという。 「『教員免許を持っているからといって、いいスタッフとは限らない』という意見もありましたが、現時点では教員免許に変わる資格が存在しません。しかし、スタッフ全員に教員免許を求めるのであれば学校と変わりませんから、オルタナティブな空間を作る意味がありません。そこで『居場所支援型』では教員資格を問わず、『学び支援型』では『1人以上が教員免許を取得していること』としました。今後は、子どもの権利などを学べる独自の研修コンテンツを作り、受講していただくことで資格基準の要件を満たしたものとすることも検討しています」 認証申請のチャンスは4月、7月、10月の年に3回で、募集期間はそれぞれ1カ月程度。認証を受けたフリースクールの情報は、不登校の子どもや保護者が最適な場を探せるよう、今年度中に新たにポータルサイトを立ち上げ公表していく予定だ。
こだわった「当事者性」、みんなで「納得解」を作る
“当事者性”にこだわった制度設計の過程にも注目したい。一般的に、こうした検討会議は学識経験者や行政、教育関係者などで構成されるが、この認証制度の検討会議では一部の委員を公募。フリースクールの代表や不登校経験者、不登校の子どもの保護者なども委員を務めた。 「不登校はかつて『登校恐怖症』や『登校拒否』といった強い意味合いを含む名称が使われていましたが、今は登校をしていない状況であるという価値観へと変わり、国も問題行動ではないとアナウンスしています。しかし、まだまだイレギュラーなマイノリティーの問題として捉えられがちで、不登校へのまなざしが非常に交錯しているのも事実。そのため、検討会議ではまず、制度設計の前に当事者それぞれが抱える困り事を具体的に共有しました。また、最適な学びのあり方について県民が意見交換会を行う信州学び円卓会議においても、認証制度について意見を交わし、参考にしました」 不登校のきっかけや要因は、人間関係や教員との関係、学校という仕組みそのものが合わないなどさまざまだ。本人はもちろん、当事者それぞれに困り感がある。 「保護者はお子さんが不登校になると孤独感を抱くだけでなく、ライフスタイルやワークスタイルも一変します。学校も学びを別の形で保障したいと思っても立場上、現状では特定のフリースクールを薦めることが難しいです。行政も、家庭や学校との距離感の取り方に難しさを感じています。そうした当事者同士が対話する機会はこれまで少なかったため、コミュニケーションの頻度と深さを心がけました」 そのため、検討会議は2023年度の上半期に毎月実施してYouTubeで公開し、全国の関心のある人たちからもフィードバックをもらったという。時間も手間もかかる方法を採ったわけだが、これこそが合意形成のポイントになったと荒井氏は話す。 「対話を進めるうちにそれぞれの『当たり前や正解』が崩れていきました。例えば、学校の先生は善意から不登校ぎみのお子さんに積極的にコミュニケーションを取ろうとしますが、当事者に聞くとそれが嫌だったという人もいれば、ありがたかったという人も。そうやってお互いに意見を表明し、ボタンのかけ違いや困り事が明らかになり、唯一の解はないことがわかってくると、徐々に子どもを中心として物事を捉えることができるようになるんですよね。とくに今は誰かが正しい答えを持っている時代ではないからこそ、みんなで納得解を作っていくことが大切だと思っていますが、まさにこういうことなんだと私自身も学ばせていただきました」