志摩の佐藤養殖場と伊賀の大田酒造 水田にカキ殻まき酒米作り、酒醸す
来年4月に創業100年を迎えるカキ養殖業を営む「佐藤養殖場」(志摩市磯部町)と伊賀の酒蔵「大田酒造」(伊賀市上之庄)と志摩で稲作を行う前田俊基さんとが12月11日、志摩市の耕作放棄地になる寸前の田んぼに粉末にしたカキ殻をまいた。(伊勢志摩経済新聞) 【写真】【その他の画像】志摩の佐藤養殖場から出たカキ殻を志摩市の田んぼにまき、酒米を育てそのコメでと伊賀の大田酒造が日本酒を作るプロジェクト 佐藤養殖場は、国内のカキ養殖の標準技術となっている養殖法の発明を広く公開し日本のカキ品質向上に貢献した水産学者の佐藤忠勇博士(1887~1984)が創業した会社で、同社で生産する「的矢かき」は三重ブランド第1号に認定されている。創業130年以上の大田酒造は2016(平成28)年、賢島で開催された先進国首脳会議「G7伊勢志摩サミット」で初日ワーキングディナーでの乾杯酒に「半蔵 純米大吟醸」が選ばれたり、英虞湾の海の中に日本酒を沈める「海底熟成酒」の取り組みを行ったりするなど伊勢志摩地域との関わりが深い酒蔵。前田さんは鳥羽国際ホテル(鳥羽市鳥羽)で長年支配人などを務め、当時ホテルに三重県産の日本酒の取り扱いが少なかったことから「三重の酒を楽しむ会」を主宰し、三重の日本酒のPRに努めてきた人物。2年前から酒米を作り、今年1月、大田酒造とコラボし「半蔵 志光(しこう)」ブランドを立ち上げた。 今回の取り組みで、廃棄物として処理されているカキ殻を再資源化し、田んぼの土壌改良剤として使うことで、海と陸の資源を循環させ、持続可能な社会の構築に貢献し、さらに漁業・農業と酒造業が連携し、付加価値の高い日本酒を作ることで6次産業化を目指す。 佐藤養殖場の濱地大規社長は「海洋環境がどんどん変化していく中で海(で作るところだけ)を見るのではなく、山や田などを含めた地域全体の資源の循環を良くしていくことが大切だということがきっかけで、今回、縁を頂き、取り組むことになった。海に流れる田んぼでカキ殻をすき込んで循環型のミネラルたっぷりの山の恵みを海に流していくことを主眼として、カキに合うお酒、山・海の幸をペアリングでできるような酒造りをしていければ。1次産業であるわれわれが力強く未来を想像していけるように取り組んでいきたい」と意気込む。 大田酒造の大田智洋さんは「一昨年に前田さんが作ってくれた三重県が開発した酒造好適米『神の穂』(カキ殻は入れていない)でできた『半蔵 志光』は好評で、生原酒は1カ月で1000本があっという間に完売。火入れの日本酒2000本も、ほぼ完売した。今年から試験的にカキ殻を入れて作った神の穂はとても生育が良く、現在仕込んでいる『志光』もとてもいいお酒に仕上がっている。来年1月には出荷できる予定。今回本格的にカキ殻を入れた田んぼでの稲作の取り組みで、さらにおいしいお酒を作れるように取り組んでいきたい。前田さんが『志摩の光でありたいと』いう思いを込めて名付けた『志光』の酒造りを通して地域に貢献できれば。来年できる神の穂で仕込み、再来年完成の『半蔵 志光』と共に皆さんと一緒に乾杯したい」と話す。 アルカリ性のカキ殻は炭酸カルシウムが主成分で有機石灰肥料として、土壌の酸度(pH)を調整し酸性に傾きがちな土壌を中和させる効果があり、カルシウムのほか、マグネシウム、マンガンなどミネラル分が多く作物の成長促進に効果が期待できるという。今回、約50アールの田んぼにカキ殻をすき込むため、約15人の地元関係者が参加。今後、計約1ヘクタールの田んぼにカキ殻をまき、三重県が開発した酒造好適米「神の穂」を栽培する。完成した「半蔵 志光」は佐藤養殖場直営のレストラン「的矢かきテラス」などで提供予定。
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