軍艦島などの産業革命遺産を広報する施設で国が<韓国批判>を行っている裏事情。実際に端島に上陸し、元島民の話を聞いてみると…
◆「負の歴史」の影はまったく感じられない その端島を訪れてみた。 島は、長崎市の南西、 野母(のも)半島の西方約5キロにポツンと浮かんでいる。幅160メートル、長さ480メートルの小さな島ながら、良質な海底炭層を擁し、1890(明治23)年三菱の所有になってから本格的な炭鉱開発が進められ、多くの坑夫やその家族が集まった。 大正時代には、土地の有効活用のため、日本初の鉄筋コンクリート造りのアパートがつぎつぎに建てられた。最盛期の1960(昭和35)年には、世界一の人口密度を誇ったが、1974(昭和49)年に閉山し、現在は無人島となっている。 「産業革命遺産」のなかでもひと目で「特別な場所」とわかる希少な例であり、観光客の人気を博している。 そのため、長崎市からは複数のクルーズ船が運航されている。わたしもそのひとつに乗り込み、海上へと進んだ。晴れていると、適度な揺れと海風が心地よい。長崎港や炭鉱の歴史についての説明を聞きながら、約1時間で端島に到着した。 縦に細長く、ゴツゴツとした外観は、たしかにかつての軍艦を思わせた。木造の建物は朽ち果て、残っているのは石と煉瓦とコンクリートと鉄骨のみ。石炭時代の島らしく、丸みを帯びたプラスチック類が見当たらないのが印象的だった。 桟橋より上陸し、観光客用に整備された広場をめぐりながら、元島民より生活していた当時の話を聞く。天下の三菱の島だったので、生活費は安く、映画館など娯楽施設も完備していた。各家庭には早くから白黒テレビや冷蔵庫、電気洗濯機が備わり、留守中も鍵をかける必要がないほど、狭いながらも家族的なコミュニティーだった――。 そこには「負の歴史」の影はまったく感じられなかった。事前に知識を得ていなかったら、ここが「歴史戦」の舞台になっていることなどまったくわからなかっただろう。
◆軍艦島デジタルミュージアム 長崎港に戻ってきて、グラバー園近くにある軍艦島デジタルミュージアムにも立ち寄った。 このミュージアムは、2015(平成27)年に開館し、端島クルーズを運航する会社のひとつが運営している。 館内には大きなスクリーンやさまざまな再現セットがあり、エアロバイクを漕ぎながら島に「仮想上陸」するVR体験や、ゆるキャラ「ガンショーくん」の部屋もあり、ビルの2階から4階まで遊園地のような雰囲気で楽しめる。日本の世界遺産ミュージアムとしては、かなりエンタメ寄りに振った内容で興味深かった。 そのなかでオヤと思ったのは、3階の一角だった。そこでは加藤康子氏の功績を讃えるビデオが流され、すぐ隣には韓国の「事実歪曲」や「反日宣伝」を批判し「誰が歴史を捏造しているのか?」と訴えるパンフレットが平積みにされていた。 発行元は、真実の歴史を追求する端島島民の会。ここだけは少し雰囲気が異なり、まるで産業遺産情報センターの出張所のようだった。 それはともかく、長崎市の公共施設では端島の歴史をどのように扱っているのだろうか。同市発行の『新長崎市史』第3巻(近代編、2014年)には、戦時中に端島炭鉱で朝鮮人や中国人が過酷な労働を強いられていたとの記述がわずかながらある。 ただ、野母町にある軍艦島資料館や高島町にある高島石炭資料館はいずれも規模が小さく、詳細な記述はほとんどない。それ以前にこれらの施設は市の中心部から遠く、アクセスが悪いので、訪問者の姿はまばらだった。 ※本稿は、『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
辻田真佐憲
【関連記事】
- トランプタワー地下1階の土産物店に行ってみた。オーナー曰く「最も売れている」トランプTシャツにプリントされていたのはまさかの<屈辱的写真>で…
- ホールもエスカレーターも金メッキ。58階建てなのに居住フロアを「68階」と呼び…。トランプタワーの中で気づいたトランプ的<強さ>の秘密とは
- スカイツリーの落差を3分で「落ちる」エレベーターで採掘へ…『海に眠るダイヤモンド』で注目!世界最大の人口密度「軍艦島」での驚くべき暮らしの実態とは
- 「昭和100年」の社会ニュースを1年ごと振り返る。日本初の地下鉄、カラーテレビの本放送、マイケル・ジャクソン来日…思い出に残る出来事はありますか?
- 安倍昭恵夫人に「スピリチュアリズム」と「愛国」が同居する理由(雨宮処凛×中島岳志)