軍艦島などの産業革命遺産を広報する施設で国が<韓国批判>を行っている裏事情。実際に端島に上陸し、元島民の話を聞いてみると…
◆長く産業遺産に取り組んできたキーパーソン この厄介な登録を推し進めたのが、現センター長の加藤康子(かとうこうこ)氏。加藤六月(むつき)元農水相の長女で、1999(平成11)年に『産業遺産』という本を刊行するなど、長く産業遺産に取り組んできたキーパーソンだ。センターの運営も、彼女が専務理事を務める産業遺産国民会議が受託している。 本人の弁では、安倍元首相の後押しも大きかったらしい。自民党が野党の時代に「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」と励まされ、安倍が総裁に復帰した直後に「産業遺産やるから」と電話をもらったという。 そのためか、ガイドの説明にも熱がこもっていた。最初のコーナーでは、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、製鉄・製鋼、造船、石炭といった分野で急速に産業化を成し遂げた日本人の偉業と勤勉さについて、数多くのパネルを使って詳しく解説してくれた。なるほど、これはいかにも安倍元首相が好みそうな内容だと納得した。 ただ、ここまではよかったものの、最後のコーナー(ゾーン3)に差し掛かると、違和感を禁じえなかった。テーマは長崎市にある端島(はしま)、通称軍艦島だったのだが、別のガイドが交代であらわれて、突如、韓国批判を展開しはじめたのだ。 「この写真は捏造」「この本の記述は信用ならない」。展示の雰囲気も一変して、元島民らの大きな顔パネルや映像などが並び、なんとも圧迫感のある雰囲気が漂っていた。 これはいったいどうしたことなのか。
◆複雑な背景 じつは、2013(平成25)年以来、韓国が「産業革命遺産」の一部で朝鮮人が強制的に働かされていたと問題視していた。そのため、2015(平成27)年の世界遺産登録の際に、日本のユネスコ大使がつぎの声明を発せざるをえなくなった。 より具体的には、日本は、1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。 つまり情報センターには、このような使命もまた課せられていたのである。 ところが、センター側は端島の元島民ら100人以上にインタビューを実施した結果、韓国側の主張の一部が事実とは認められなかったとして、なんと展示を通じて反論を開始した。加藤氏もまた、保守系メディアで積極的にこの問題を取り上げた。 こうして先述のようなアンケートや展示ゾーンが形成されたわけだ。以上のような複雑な背景を理解していないと、突然の韓国批判に戸惑ってしまうことだろう。 もっとも、加藤氏らの主張にまったく理がないわけでもない。韓国側の強調していた「過酷な労働の証拠写真」が、実際は完全に別物(撮影の場所、時期が異なり、被写体も日本人)だったからである。突き止めたセンター側もそれゆえ、韓国のプロパガンダには負けぬと鼻息が荒い。 このように端島は、図らずも「歴史戦」の最前線となっている。
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