「ラーメンの鬼」死して 電力、広告、特捜、キック……時代に名を残す「○○の鬼」
将棋、映画、演劇、写真、料理、特捜まで
「業界」を広げてみると……。 「将棋の鬼・升田幸三(1918~1991)」。奔放な棋風と気風で大山康晴(永世王将・永世棋聖)と数々の名勝負を演じた。升田をモチーフに、坂口安吾は『将棋の鬼』を著している。「麻雀の鬼・桜井章一(1943~)」は、裏マージャン(?)の世界で20年間無敗を誇った伝説の雀鬼(じゃんき)。「映画の鬼・今村昌平(1926~2006)」は、人間の欲と生を強烈なリアリズムで描き、『楢山節考』と『うなぎ』で2度のカンヌ国際映画祭グランプリを獲得した。「演劇の鬼・宇野重吉(1914~1988)」は、劇団民藝を立ち上げ、戦前戦後を通じて日本の演劇界をリード。晩年は進行がんを抱えながら全国を公演行脚した。「写真の鬼・土門拳(1909~1990)」は、絶対非演出を唱えて日本のリアリズム写真を確立。前出の電力の鬼・松永安左エ門のポートレイトも撮影している。ヌーベルキュイジーヌを日本に紹介した「フランス料理の鬼・小野正吉(1918~1997)」は、ホテルオークラ初代総料理長として本場に匹敵するフランス料理を確立させた。 そして、「特捜の鬼・吉永祐介(1932~2013)」、別名を「ミスター検察」。地検から検事総長まで歴任。妥協ない捜査でロッキード事件やリクルート事件などを手がけた。などなど……。
「鬼」たちには、強烈な「反骨精神」が宿る
そういえば、今年の世界卓球・香港戦で相手のマッチポイントから奇跡の逆転劇を演じた平野早矢香は「卓球の鬼」。いまひとつ浸透していないようだが、闘志あふれる彼女の卓球は「鬼」の形容にふさわしい。ただし、本人は当惑気味とか!? こうしてみると「鬼」と畏敬される人々には、強烈な「反骨精神」が宿っているように思う。たとえば、松永安左エ門は軍や既成の権威による統制に。吉田秀雄は広告を賤業視する時代と社会に。初代若乃花は貧しさや自身の恵まれない体格に。沢村忠は新興格闘技を見るボクシング界の冷淡な視線にといった具合だ。いわばエスタブリッシュメントに対するイノベーターの反旗。 「鬼」とは「まつろわぬもの」の別称でもある。冒頭の佐野実が半世紀後に「ラーメンの鬼」として語り継がれるか否か。「たががラーメン」を「されどラーメン」の文化論へと発展させた革新者として、十分その資格があるのではないか。(文中敬称略) (文責・武蔵インターナショナル)