「数量限定」や「地域限定」が魅力的な理由とは? "行動経済学"を小説形式で解説した一冊
皆さんは買いものをするときに「数量限定」や「地域限定」などの言葉に魅力を感じてしまったことはありませんか? その結果、買おうと思っていた以上のものを買ったり、買うつもりはなかったのに買っていたり、そういう経験が誰にでもあるかと思います。 これは買い手の心理をうまく利用した「行動経済学」が根底にあるからです。そのため行動経済学を理解していれば、買いもの時のちょっとした選択も売り手に影響されず、本当にほしいものを購入できるようになるはず。逆に何かを売る側になったときは行動経済学の知識をいかして多くの顧客を獲得することができるでしょう。 そんな経済学の一大ジャンルである行動経済学を、初心者でも理解できるように小説形式で紹介した、太宰北斗さんの著書『13歳からの行動経済学 推し活中学生のお小遣い奮闘記』は、生活に根付いた基礎を学びた人におすすめの一冊です。 たとえば、先述した「数量限定」や「地域限定」などの言葉に魅力を感じてしまう心理は「希少性バイアス」と呼ばれています。 「人は"なかなか手に入りにくい"と聞くと急にものに価値を感じるという傾向があるんだ。これを希少性バイアスというんだよ。だから"何個限定""○日間限定"みたいに数量や時間的な制約を設けたりもするんだよ」(同書より) また、希少性バイアスと強く結びつく心理に"損失回避"があります。これは文字通り損することを避けようとする心理です。「数量限定」といわれると、「これを逃すともう買えないかもしれない」「ほしいものが手に入らない=損失」という心理が働くのだそうです。身に覚えがありませんか? さらに自分が注意を向けているものを重要視する"セイリアンス"も働き、「数量限定」の魅力はどんどん増していきます。このたった一言に、抗いがたい人間の心理がこんなにも働いているなんて驚きですね。 もう1つ面白いのが"プロスペクト理論"です。以下の状況になったとき、皆さんならどちらを選ぶでしょうか。 「一つ目は、A:推しのTシャツが絶対に手に入る、B:ジャンケンで勝ったらTシャツとタオルが手に入るけど、負け・引き分けのときは手に入らない」(同書より) "推しのTシャツ"は、皆さんにとってなかなか手に入らないほしいものと置き換えて考えてみてください。おそらく多くの人が、不確かなBより絶対に手に入るAを選ぶかと思います。では、以下の状況だとどうでしょうか? 「お母さんに2000円借りるとする。このとき、A:1000円は免除、残り1000円はいつか返す、B:ジャンケンに勝ったら2000円は返さなくてもいい。ただし、負け・引き分けのときは借金が2000円のまま」(同書より) この場合はBを選ぶ人がほとんどかと思います。先ほどとは違い、借金が絶対に半額になるAより、不確かでも借金がなくなるかもしれないBのほうが魅力的に感じますよね。 「借金が残るのはどんな金額でも"損失"に思えるから、どうしても避けたかったわけだ。こうした考え方がまさに"プロスペクト理論"なんだよ」(同書より) 読み進めるほどに、経済行動が人間の心理に大きく左右されていることがよくわかります。 他にも同書では、松竹梅のメニューがあると竹を選んでしまう心理や、「宝くじが当たるかもしれない」「飛行機事故に遭遇するかもしれない」など非常に低い確率で発生する出来事を実際の確率より発生しやすいように感じてしまう心理など、興味をそそられる内容が盛りだくさんです。こうした心理を売り手がどのように利用しているのかという点も、読んでいて楽しいポイントです。 同書は13歳の萌とあおいを中心に物語が展開されるので、難しい用語は理解しやすい簡単な言葉に置き換えて解説しています。そのため大人はもちろん中高生も楽しく学べるはずです。行動経済学の知識はビジネスだけでなく、暮らしにも大いに役立つので、この機会に同書で基礎を学んでみてはいかがでしょうか。 [文・春夏冬つかさ]