「驚いたことに…」“孤独だった”サンドロ・トナーリはどう生まれ変わったのか。あの事件からの日々【コラム】
●インテルに移籍しかけていた?
イタリアでは、12月12日の聖ルチーアのお祭りで、子どもたちが願い事を書く風習があるのだが、トナーリは「ミランの選手になれるように」と聖ルチーアに手紙を綴っている。実は、ミランに移籍が実現する2020年夏、もう一つのミラノの青と黒のクラブにトナーリが“強奪”されそうな危機があった。 インテルとブレッシャ、そして代理人との契約はほぼまとまりかけていたが、当時のインテルの指揮官、アントニオ・コンテが経験のある選手の獲得を要請。トナーリの移籍は破断となり、チリ代表のアルトゥーロ・ビダルの獲得に舵が切られた。 こうして、インテル移籍は“回避”され、聖ルチーアのご加護もあってか、幼少期から夢に描いたミランへの移籍が実現することとなった。 ミランでの2年目の2021/22シーズン、トナーリはカンピオナートの36試合に出場し、5ゴールと3アシストを記録して、クラブの19度目のスクデット獲得に大きく貢献。主役の一人となった。翌シーズンはゴールこそ2に終わるが、アシストは7に増え、替えのきかない存在に。やがては、チームを牽引するカピターノとなり、バンディエーラとなると誰もが思い描いたはずだ。 ところが、ニューカッスルへの電撃移籍が決まり、ミランでの冒険はわずか3年で終焉を迎えることとなった。そして、サッカー賭博の発覚だ。
●ニューカッスル時代 「処分を受ける前、自分の中には2人の人物がいた」
「まさかあのトナーリが賭博に手を染めていたのか」というショックを受けた人は少なくなかったはずだ。陽気なイタリア人のイメージとはかけ離れ、口数は少なく、淡々とプレーをこなす。優等生的な印象が強かった、あのトナーリが……。 こうして、10ヵ月の謹慎期間を経て、90%もの減報を自ら申し入れ、8月28日に出場停止の処分が解かれた。トナーリは、英国メディア『Sky Sports』のインタビューでスタジアムを離れた日々を振り返った。 「処分を受ける前、自分の中には2人の人物がいた。家族と過ごす生活があり、そして、トレーニングを行うグラウンドでの生活だ。グラウンドでは、とても内気で、ほとんど誰とも話すことはなかった。チームメイトとも口を交わすことはなく、とりわけスタッフとの会話は難しいものだった。 今では、その頃とは全く異なる自分になった。家族といる時も、監督やチームメイトと話す時も、そしてサッカーをする時も常に“サンドロ”。同じ一人の人間になったんだ」 サンドロは、賭博発覚後に、生まれ変わったことを強調した。サッカー選手は孤独だ。今ではSNSの普及により、酒場やバー、イタリア人が愛するディスコに顔を出せば、すぐに写真を撮られ、拡散されてしまう。トレーニングが終われば、家の中で閉じこもり、ストイックな生活を送り続けるしかない。それゆえ、時間を持て余してしまい、賭博の罠に陥っていしまったのだろう。 だが、処分を受けた後のトナーリは孤独ではなかった。