ドコモが“料金プラン+AIのセット割”を提供する狙い なぜahamoやeximoが割引対象でirumoは対象外なのか
自社から飛び出したスタートアップを活用し、新サービスにつなげたドコモ
SUPERNOVA側からこうした提案ができたのは、木本氏が、もともとドコモでahamoの立ち上げに携わっていたからだという。同社は、単なるスタートアップではなく、ドコモからスピンアウトして誕生した企業。先にコメントを引用した東氏が担当する、docomo STARTUPという取り組みによってドコモから独立した木本氏が2024年1月に設立した。もともとドコモの社員だったからこそ、ドコモの懐事情にフィットした提案をまとめることができたというわけだ。 とはいえ、もとの企業にとどまったまま起業する社内起業とは異なり、docomo STARTPUの「STARTUPコース」は社員が出向や離職という形で独立しており、ドコモ自身の出資比率もマイナー出資の15%未満に抑えられている。「外部ベンチャーキャピタルからの出資、支援をいただきながら、スピンアウトしていく仕組み」(東氏)とのことで、より一般的なスタートアップに近い環境に身を置くことになる。 ドコモの代表取締役社長、前田義晃氏は、この仕組みを「ドコモからスタートアップへ飛び出していく仕組み」と評する。ドコモの既存事業との「シナジーは不確実だが、事業の可能性のあるところに高いモチベーションを持って挑戦できる」(同)のが、そのメリットだ。2023年度にはドコモ内で500以上の応募があり、5社が実際にスピンアウトしている。SUPERNOVAは、その中の1社だ。 前田氏は、シナジーが不確実と語っていたものの、docomo STARTUPでは、独立した経営者が積んだ経験がドコモにフィードバックされることを想定している。Stella AI割は、それを超え、ドコモのコンシューマー向け通信事業との直接的なシナジー効果が見込めた、珍しいケースといえる。ドコモ側も、割引だけでなく、ドコモショップでの受付や、一般ユーザーを対象にした「生成AI講座」まで実施し、Stella AIの成長をサポートする。 AIモデルの1つとして、NTTが開発した「Tsuzumi」が選択可能なのも、ドコモ発のスタートアップだからこそといえる。Tsuzumiは70億パラメーターの軽量版と、6億パラメーターの超軽量版があり、いずれも既存のLLMと比べるとサイズが小さい。パフォーマンスのCPUやGPUの処理能力が低くても動作するが、学習データを厳選するなどして、性能を担保している。NTT版LLMとも評されたTsuzumiだが、提供先は法人に限定されており、一般コンシューマーは利用ができなかった。Stella AIは、B2B2Cの形を取ることで、Tsuzumiをユーザーが直接利用できる。 NTTグループ全体にとっては、開発したLLMの“販売先”を大きく広げることに貢献する。ユーザーがTsuzumiを選べば、SUPERNOVAを介してコンシューマーが料金を払ってくれることになるからだ。実際、ソフトバンクもPerplexity Proで選択できるAIモデルの1つとして、同社が開発しているLLMの導入を検討しているという。このようなAIサービスを介した形での提供が成功するかどうかは未知数だが、キャリアにとって、コストをかけて開発したAIモデルを生かす手法の1つにはなりそうだ。
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