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アビガン認可に抵抗した厚労医官、今井秘書官は経産省に推進チーム

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【伊藤博敏の事件録】レムデシビル認可、製造会社元会長はラムズフェルド元国防長官

 新型コロナウイルスの治療薬第一号は、米ギリアド・サイエンシズの「レムデシビル」となり、競っていた富士フイルム富山化学の「アビガン」は、「5月末までの承認」となった。当初の「6月末の治験終了後」よりは早まったものの、「第一号」は譲った。  ただ、これは医薬品業界では想定内だった。  「第一号をアビガンにする選択肢は、厚生省にはありませんでした。なにしろ(胎児に奇形が生じる)催奇形性があり、妊婦には使えない。万が一のことがあればと、踏み切れなかった。それだけエイズ事件がトラウマになっているのです」(大手製薬会社幹部)  薬害エイズ事件――。  1980年代、血友病患者に対し、加熱処理をしなかった血液凝固因子製剤(非加熱製剤)を投与、多数のエイズ患者を生み出した。約600人が死亡し、帝京大学ルート、ミドリ十字ルートとともに、当時の厚労省生物製剤課長が罪に問われ、08年3月、最高裁で懲役1年執行猶予2年の有罪が確定した。  その時、問われたのが「不作為の作為」である。元課長は、「非加熱製剤は(加熱してウイルスを不活性化する)加熱製剤が承認された段階で、置き換わると思っていた」と主張。これに対して裁判所は、「非加熱製剤を回収させるべきだった」として、それを怠った課長には「不作為の罪」があるとした。  もともと厚労省には、60年前後、胃腸薬などとして市販されていたサリドマイドを服用していた女性らが、奇形児を出産したサリドマイド事件という苦い教訓があった。  催奇形性に加えて、承認という判断が刑事罰に問われかねないという不安。それが厚労省を委縮させた。  アビガン承認に「前のめり」だったのは官邸である。官邸が期待したのは、政府の意向が通りやすい国産であること、抗インフルエンザ薬としての承認は既に受けていること、「イザ」という時のために約200万人分(抗インフルエンザウイルス薬としての備蓄量で新型コロナでは70万人分)の備蓄があること、だった。  この「イザ」は、「新型の感染症」で、「他の抗インフルエンザウイルス薬が効果不十分な場合」にのみ使用が認められる。  アビガンの効果を最初に認めたのは中国だった。細胞内でウイルスが増殖するために行う遺伝子の複製を阻害するという特性を持つアビガンは、中国の大手製薬会社の浙江海正薬業が、富士フイルムからアビガンの関連特許を用いて製品化していた。  19年にアビガンの成分(ファビピラビル)特許が切れると同時に、後発医薬品(ジェネリック)として治験を開始。今年2月15日には、効果があったとして中国規制当局の承認を受け、大量生産体制に入った。  3月中旬になって日本でも感染が広がりを見せ始めると、官邸は「効果があるなら使えばいい」と、前向きになり、新型コロナ治療薬としての効果を逆輸入する形で、今井尚哉首相補佐官ら経産省出身者が音頭を取って、経産省内に「アビガンチーム」を発足させた。  安倍晋三首相が、3月28日、新型コロナ対策会議後の記者会見で、「海外から関心を寄せられており、今後、希望する国々と協力しながら臨床試験を拡大する」と表明。「症状の改善に効果が出ているという報告もある」と、踏み込んだのにはそうした伏線があった。  だが、厚労省は否定的だった。医系技官トップの鈴木康裕医務技監以下、慎重な姿勢を崩さず、それを受けて加藤勝信厚労相も「効能効果がわからない薬だという認識はしないといけない」と、口にしていた。  この「踏み込まない判断」は、過去の薬害から来た厚労省の「教訓」だが、「自分たちで情報を握り、国民に判断材料を与えない」という役人体質に重なる。  それは、散々指摘されたPCR検査の絶対数の不足にも表れている。欧米や韓国に比べて圧倒的に不足しているPCR検査によって、「検査難民」が発生、検査を受けられないまま入院できず、孤独死した例すらあるのに一向に増えないのは、クラスター対策班による濃厚感染者の発見と隔離を優先、PCR検査を抑制してきたからだ。  それは、東京五輪延期の判断をする3月24日の時点までは、政府や東京都の意向を汲み取ったものだったが、その「枷」が取れても改めないのは、方向転換が過ちを認めることになるからだろう。  そういう意味で、アビガンが承認第一号となる環境にはなかった。では、レムデシビルはそれほど効果的な治療薬か。これについては、否定的な意見が少なくない。  もともと抗エボラ出血熱薬として開発されたもの。感染がアフリカにとどまっているため話題になることは少ないが、エボラ出血熱は流行を繰り返しており、コンゴ民主共和国では、18年8月の流行宣言以降、約3500人が感染、約2300人が死亡した。致死率の高さが感染を抑える、という皮肉な結果につながっているが、コンゴのボランティア医師が抗エボラ薬について語る。  「現段階では対処療法のみですが、様々な医薬品の治験を行っています。ファビピラビルとレムデシビルは、細胞内の増殖を抑えるという同じ効能を持っていますが、ファビピラビルには催奇形性があり、レムデシビルには腎機能低下のような副作用があるわりには効果が見られない、ということで、双方、承認には至っていません」  致死率が高く、重篤化すると手の施しようがないエボラ出血熱に対し、感染力は強くとも無症状や軽症状が8割を占める新型コロナの方が、治療薬としての効果を発揮しやすい、ということのようだ。ファビピラビルは錠剤なので飲みやすく軽症から中等症に、静脈に点滴するレムデシビルは重症患者に、という使い分けも期待できる。  ただ、レムデシビルの緊急認可には「いくら緊急とはいえ急ぎ過ぎ」(感染症専門家)という声もある。  「米国で承認されたのは、4月29日、米国立衛生研究所が回復期間短縮の治験結果を公表したことが直接のきっかけです。でも、同じ日に中国などの医療グループが、医学誌に『治験の結果、効果はなかった』と発表しています。ギリアド社は、ラムズフェルド元国防長官が大株主で元会長と政治力もある。そのあたりも緊急承認の理由でしょう」(同)  厚労省として大切なのは、米政府が認可したという事実であり、承認責任はとりあえず米国に着せられる。ただ、レムデシビルには腎機能障害で貧血、血小板減少といった副作用が見られ、また、増産体制に入ったのは1月からで、大半が米国内で消費され、最初のうち、日本にはほとんど入ってこないという現実がある。  だが、大切なのは治療薬が認可されたという事実であり、それによって国産アビガンの承認は早まる。それが、「第一号」を米国に譲った背景なのである。

伊藤 博敏 (ジャーナリスト)

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