ゴールデン・グラブ賞の記者投票は見直すべき? 現場から「納得できない」の指摘も
ゴールデン・グラブ賞は記者投票によって選定される。日本の報道機関(新聞社、通信社、放送局)のプロ野球記者で、5年以上の取材キャリアを持つことが投票の資格者として定められている。 セ・リーグ球団のスコアラーは、選考方法に複雑な表情を浮かべる。 「記者の方たちの選考を疑っているわけではありません。ただ、明らかに守備が得意でない選手に何票も入っている結果を見ると、本気で考えてくれているのか疑問に感じます。無記名での投票も責任感を希薄にしている。現場の首脳陣や選手、審判による投票のほうが公平ですよ」 メディア側の言い分はどうだろうか。実は記者投票に疑問を感じる声は少なくない。 「番記者の数が多い巨人、阪神の選手は票が集まりやすいので有利になる傾向がある。あと、自分が担当している球団以外の試合はなかなか見られないので、どうしても『この選手は守備がうまい』という先入観に頼ってしまう。UZRなどセイバーメトリクス(統計学的手法)で守備能力が数値化されるようになっていますが、調べていない記者は少なくない。選手間投票に変更したほうがいいという意見は理解できます」(スポーツ紙記者) 「大きな声では言えませんが、記者投票は時代に即していないと感じます。自分の担当する球団はひいき目に見てしまいますし、守備の名手を選ぶのに打力などが反映されてしまう。誰もが納得できる選考方法を考えると、選手間や監督、コーチ、プロ野球OBの投票のほうが説得力がある」(民放テレビ関係者)
海の向こうのメジャーリーグはどうだろうか。守備の名手を表彰するゴールドグラブ賞は、記者投票で選考する方式ではない。両リーグ別に各ポジションで3人の候補選手が発表され、その後にメジャーの30球団の監督と最大6人のコーチが、自身が所属する球団以外で同一リーグ内の選手の候補者から投票する仕組みになっている。昨年から「ユーティリティ部門」が新たに設けられた。受賞以前に、各ポジションでこの3人の枠に選ばれることが狭き門だ。今年は、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)はノミネートされず。両リーグ10ポジション20選手のうち、13人が初受賞となった。 「米国のゴールドグラブ賞も以前は全盛期を過ぎた選手が選ばれるケースが目立ち、賞の価値に疑問が上がることが少なくなかったが、守備の指標が細かく数値化されたデータと首脳陣の投票が重視されるようになってからは、以前より公平な選考基準になっていると思います。今年で言えば、ナ・リーグのユーティリティ部門で韓国人選手のキム・ハソン(パドレス)がアジア人の内野手で初めて受賞しました。アジアの選手は身体能力が低いというのが定説でしたが、先入観に左右されず球際に強く安定した守備能力がきっちり評価された。複数のポジションを守れる守備職人が輝くことは大きな価値があると思います」(米国在住の駐在員) 守備の名手が報われるシステムに――。記者投票を含めて日本のゴールデン・グラブ賞は選考基準を見つめ直す必要があるかもしれない。 (今川秀悟)
今川秀悟