「この11年で日本は何も変わってない」34歳のドラフト候補・田澤純一が誘起する変革の火種
「根性で野球がうまくなるなら苦労はしない」
田澤自身も、11年間離れていた日本でプレーすることで、多くのことを感じているという。 「まだ、こんなことやってんのかっていうのは、正直ちょっと思いましたね(笑)」。9月のインタビューで、田澤は日本野球の現状について、こう語ってくれた。冗談めかしてはいたが、その口調は真剣そのものだ。 NPBではなく、あくまでも独立リーグの話、という前置きがあった上で、久しぶりの日本野球を田澤はこう評してくれた。 「例えば、『根性』っていう言葉がありますよね。ミスをしたり、練習でへばったりしたら、『根性出せ!』という言葉が飛び交う。アメリカでの11年間ちょっと、グラウンドで『根性』なんて言葉は、一度も聞いたことがなかったです。根性で野球がうまくなるなら苦労はしないし、僕が日本にいたころから、そういう根本は全然変わっていないのかなと。年齢による上下関係もそう。もちろん、ある程度の礼儀は必要かもしれないですけど、たとえば全体練習でベテランの選手がグラウンドに残っていると、若手は自分のメニューがとっくに終わっているのに、フラフラしながらずーっとその場にいるんです。僕はそういう選手を見たら『いや、自分のやることが終わったら早く上がっていいよ』と言っています」 旧態依然とした慣習は、今も日本の野球界に根強く残っている。11年間、日本の野球から離れていたが、自分がいたころと何も変わっていない……。そこに、少なからずショックを受けた様子だった。
進化し続けるアメリカ野球界。日本は率先して新しいことを!
インタビューの最後に筆者から質問をできるタイミングがあったので、アメリカでの12年間についても聞いてみた。 「日本が『変わっていない』と感じたということは、アメリカでの11年間では逆に、大きな変化や進化を感じていたということでしょうか」。そう問うと、田澤は間髪入れずにこう答えてくれた。 「めちゃめちゃ進化していますよ。僕が向こうに行ったころとは比べ物にならない。毎年のように新しいトレーニング法やデータがアップデートされて、チームも選手も貪欲にそれを取り入れようとする。だって、マイナーの投手たちが今、何を話しているかといったら、『回転数』ですよ。日本では今もまだ、『球速』の話をするじゃないですか。選手だけでなくチームもそう。いくら球速が出ても回転数が一定の基準に達していなかったらメジャーに昇格できないこともあります」 日本でも近年、アメリカの影響で少しずつ回転数や回転軸、ボールの変化量など、細かな数値が話題になるようになってはいるが、アメリカではすでにマイナーレベルからそれが徹底されている。 田澤は、さらに続ける。 「データだけでなく、例えばオープナー(本来リリーフの投手が先発して1~2イニングだけ投げる起用法)や2番に強打者を置く打順もそうですよね。世界トップのメジャーリーグが一番、新しい挑戦を続けている。僕は、日本野球にもメジャーに負けない素晴らしい部分がいっぱいあると思うんです。だからこそ、例えばメジャーのまねじゃなくて、日本が率先して新しいことに取り組んでもいいはずなんです」 現在はNPBにもロッテの井口資仁監督やヤクルトの高津臣吾監督らを筆頭に、「メジャー経験」のある指導者が増えつつある。 ただ、そのほとんどがNPBで実績を積んだ後にメジャーに移籍した人間だ。彼らのプロ野球選手としての土台は、やはり日本にある。 田澤のように、プロの土台が日本ではなくアメリカにある選手の存在は、まだまだ貴重だし、そんな選手がNPBにやってきたら、これまでにない新しい発見や化学反応が起こるかもしれない。 「正真正銘の即戦力」というだけでなく、日本球界にとっての財産として、田澤にはぜひ、力になってほしい。