引退馬に“セカンドキャリア”を……居場所はどこに? 「1頭でも救いたい」葛藤抱えた元調教師、移住で新たな挑戦『every.特集』
華々しい戦いが繰り広げられる競馬界。その裏では、毎年7000頭ほどが引退しています。登録を抹消された馬のうち、事故死・自然死・行方不明などは約3割。乗馬になるため訓練を受ける引退馬や、馬の居場所をつくるため挑戦する元調教師を取材しました。 【動画をみる】引退後の競走馬…新たな“居場所” 余生を過ごすセカンドキャリア 『every.特集』
■観戦した人「引退後はわからない」
競馬の最高峰、G1レース。ファンの熱狂の渦の中、頂上決戦に挑むのは狭き門です。華々しい戦いの裏では、毎年約7000頭の競走馬が引退しています。 G1レースを観戦した人は「引退した後…別の施設に行って休んでいるのかな」「引退した後は…ちょっとわからないですね」「僕もわからないですね」と言います。
■獣医師「居場所は競馬場にはない」
今年8月。栃木・宇都宮市の施設に、引退したばかりの競走馬が引き取られました。引退馬を乗馬などに訓練するサラブレッド・アフターケア・アンド・ウェルフェアに来たのは、地方競馬で16戦2勝を上げたサラブレッドのレアリゼシチー(5)です。 JRAが初めて、引退馬のセカンドキャリアを開拓する事業に乗り出しました。馬の一時受け入れ施設「TAW」の宮田健二獣医師は「競馬場にいる馬たちは競馬のためだけにいる馬なので、競馬に使わない馬の居場所は競馬場にはないんです」と話します。 居場所をなくしたレアリゼシチーは、この施設が迎えた初めての馬です。
■したたる汗…初の放牧、全速力で疾走
乗馬への訓練が始まりました。まずは足を守るプロテクター。装着するのは初めてですが、違和感があるのか、その場で地団駄を踏みます。 この施設での初めての放牧では、すぐに全速力で疾走。しかも同じ場所を行ったり来たり、走り続けます。競走馬の使命はどの馬よりも速く走ること。レアリゼシチーは30分以上、汗だくになるまで走り続けました。 「アスリートなので。サラブレッド競走馬は。それを1回リセットしてもらう」とTAWの宮田獣医師。速く走る競走馬ではないことを、認識させなくてはなりません。
■小回りが苦手…競走馬から乗馬へ
約3週間後、早くも変化が現れました。放牧すると、その場でのんびりと草を食べ始めました。訓練初日は放牧するとすぐ疾走し続けていましたが、取材したこの日は一度も走りませんでした。10分の1秒を争う訓練をやめるだけでも穏やかになるといいます。 調教担当の千葉祥一さんは「基本、馬は毎日、一日中草を食べて生活するような本能がありますから。これが本来の姿なんでしょうけど」と言います。競走馬から徐々に、本来の馬の姿になろうとしています。 しかし、まだ競走馬ならではの動きがあるといいます。「競走馬は(走るのは)直線や大きいカーブで、できるだけ全速力・速くを求められてきた」と話します。 全速力で、楕円形の長いコースを走ることをたたき込まれた競走馬は、小回りが苦手だといいます。乗馬になるには、ゆっくり小さく回ることも身につけなくてはなりません。 歩く、走るなど動作の指示を正確に聞き分け、誰でも扱えるようになることも必要です。