水俣病の患者認定基準は現在どうなっているのか?
環境省はさる7月9日、国の臨時水俣病認定審査会(臨水審)の答申に基づき、熊本、鹿児島両県から移行した4人の認定申請について、いずれも棄却したと発表しました。現行の認定基準より幅広く水俣病と認めた昨年4月の最高裁判決を受け、本来認定業務を行うはずの熊本県が業務を返上したため、国が臨水審を設置して新たな認定基準の運用指針を示す通知を出し、それに基づいて審査されたものです。 認定基準は1977年にできた「52年判断条件」と呼ばれる基準から変わっていませんが、1995年、2010年の政治決着では触れられず、また2004年、2013年の最高裁判決などにより見直しが求められていました。あとに見るように2014年に新たな運用指針が通知されましたが、基準そのものは変わっていません。 この「52年判断条件」と呼ばれる基準は、水俣病によく見られる複数の症状(感覚障害、運動失調、視野狭窄など)の組み合わせがあることを審査の必須要件にしていました。これは、1970年代に認定申請数が急増したため、審査を厳格化することを狙いとしたものでした。その結果、認定申請しても棄却される「未認定患者」がさらに増加し、長期にわたって争いが続いてきました。この基準は、被害者だけではなく専門家からも医学的根拠が薄いとして批判されてきたもので、日本精神神経学会もこの判断条件を批判する声明を出しています。 昨年3月、棄却処分の取消しと認定義務づけを求める訴訟では、最高裁は症状の組み合わせに基づく国の認定基準を狭隘すぎると批判、感覚障害があれば、水銀の摂取状況等を総合的に検討して認定できるとし、複数の症状の組み合わせがなければ認定できないとする国側の主張を退けました。さらにこの判決に沿って、国の不服審査会は10月末、認定棄却を争っていた案件について熊本県の棄却処分を取消す裁決をだしていました。 これを受け、熊本県はこういう状態では認定業務はできないとして国に臨水審の再開を要請し、環境省は今年3月、複数症状の組み合わせがない場合の「総合的検討」について整理した新通知を出したわけです。その内容は、有機水銀の暴露を受けたとする客観的資料(数十年前の魚介類の喫食状況を示すもの、毛髪や尿中の水銀濃度、同一家族内の認定患者の存在など)を求めることなどが示されていました。