ティラーソン解任でも容易には始まらない「米朝戦争」
「限定戦争」と「全面戦争」
通常、国家間の戦争は「限定戦争」が行われます。 限定戦争は「政治の延長」であるともいえるので、相手国の政権の存続を認めます。だから軍隊の勝敗によって、相手国の政権から譲歩を引き出します。それと違い、全面戦争では、相手国は政権が倒されないように死に物狂いで戦争します。 実際、第二次世界大戦の日本は限定戦争で戦争していました。一方、アメリカは全面戦争で戦いました。アメリカが政権を潰すために戦争していると認識した日本は、必死に抗戦したのです。 限定戦争の長所は、軍の勝敗によって政治家同士の交渉が成立するところです。ですが全面戦争は、戦いで激しく消耗することになるので短所しかありません。 アメリカは先の大戦で全面戦争の悲惨さに気づき、それ以降は全面戦争をやめました。1950年に起こった朝鮮戦争からは制限戦争を採用しています。しかし制限戦争を選択すると、勝てるはずの戦争が勝てなくなってしまいました。朝鮮戦争やベトナム戦争でアメリカが勝てなかった理由は、政治が軍の作戦行動に介入したからです。 つまり、軍隊が敵軍を見つけても、政治家が攻撃を禁止する命令を出してしまうからです。しかも戦場の範囲は政治家によって指示されており、その範囲外に敵軍がいた場合は攻撃できません。これが繰り返されたことによってアメリカ軍は勝つことができなかったのです。 「国家戦略=外交×軍事」 基本的に限定戦争は、軍事力を背景に外交を行うので、軍事力が撃破されれば外交力を失います。この時に和平交渉が成立します。これが人類の経験則なのですが、軍事行動がパフォーマンス化する制限戦争では、相手国は軍事力を維持することができます。相手国は軍事力が温存され、それを背景に外交を行うことができるので、和平交渉に応じる必要がないのです。これが現在の北朝鮮とアメリカの状況だといえます。 限定戦争では、相手国の軍事力を撃破すれば戦争が終わります。相手国の政治家は外交交渉ができなくなり、和平交渉に応じるからです。それが制限戦争では、相手国から譲歩を引き出すことが目的なので、敵軍を撃破しません。そのため相手国は和平交渉に応じる意味がなく、勝者も敗者もないまま「戦争」は続くことになります。 制限戦争を目論むトランプ大統領は、空母艦隊を朝鮮半島に移動させたり、グアムから爆撃機を朝鮮半島まで飛行させたりしています。しかし、トランプ大統領には戦争する意思はなく、軍事力の恫喝で北朝鮮に譲歩させようとしているのです。