〈中東紛争の“現場”次はイラクか?〉再び動くイランの「代理勢力」、イスラエルは報復への構えも
イラン、イスラエルの思惑
イスラエルによるイランに対する2回目の報復攻撃の直後、イランが、イラクからイスラエルへの再報復を行うという報道が出回ったが、2回目のイスラエルの報復で手痛いダメージを受けたイランが、これ以上のイラン本土への損害を避けるためにイラクを利用しようと考えた可能性は確かにある。しかし、そうはならなかった。 それは、仮にイランがイラクの代理勢力を利用してイスラエルを攻撃しても、イスラエル側は攻撃の黒幕はイランだと判断してイランへの報復は避けられないだろう、とイランが判断したからであろう。これが交戦規則に従う米軍であれば、イラクの代理勢力が米軍を攻撃したならば、その黒幕がイランと分かっていても、あくまで直接的に攻撃した代理勢力に報復するに止めるだろうが、イスラエルは容赦が無い。 過去2回のイスラエルのイランへの報復攻撃に際して、イラクの領空が使われたのは間違い無いであろう。そして、現在、イラクの領空は米軍がコントロールしている。 イラン側としてはイスラエルの報復に加担している米軍を攻撃するのは十分に理屈が立つが、やはり、イランと相性の悪い次期トランプ政権の事を慮って自制しているのであろう。しかし、国内に武装した親イラン勢力が割拠している一方でイスラエルが自国領空を対イラン攻撃に利用している状況下では、イラク政府が、拡大しつつある中東の紛争に自国がいつ何時巻き込まれるか分からないと恐れるのは十分に理解出来る。
かつてとは異なるイラク
さらに、上記の記事が示唆するように、イラク政府に国内の親イラン代理勢力を取り締まらせるために次期トランプ政権が対イラク制裁を行うとすれば、弱体なイラク政府が親イラン代理勢力を取り締まれる訳がないので「泣きっ面に蜂」となろう。武力行使を忌避する傾向の強いトランプ次期大統領が、米軍を攻撃する親イラン代理勢力を米軍に掃討させるより経済制裁を選択する可能は高そうだ。 ただ、この記事が懸念する程には中東の紛争がイラクに拡大するとはあまり考えられない。何故ならば、フセイン政権時代の昔と違って、イラク自体がイスラエルに対する脅威であるわけではなく、イランを弱体化させればイラクの親イラン民兵もそれに従って衰退するだろうと考えるのが妥当だからである。
岡崎研究所