「#井端やめろ」運動にギモン 「監督さえ代わればすべてが改善する」わけがないのに(中川淳一郎)
野球の世界上位12カ国が参加する「プレミア12」の決勝戦で日本は台湾に敗れ、優勝を逃しました。決勝までの8試合をすべて勝っていたのに、5勝の台湾が優勝したのです。 【写真をみる】「更迭デモ」を起こされた監督は? すると発生するのが「#井端辞めろ」というネット上のムーブメントです。いや、8連勝し、最後、たまたま負けただけの話で、井端弘和監督が辞めるような話ではないでしょうが。無茶苦茶な比較ですが、8勝1敗を143試合のシーズンに換算すると、127勝16敗です。こんな強いチームはプロ野球の長い歴史の中で存在しません。
監督って過度に批判されるように思います。決勝戦にしても、巨人のエース・戸郷翔征が5回に4点を取られたのに加え、打線も沈黙したから負けました。これ、采配でどうなることではなく、台湾選手の調子、日本選手の調子、その時々の運などが重なった結果であり、井端監督のせいではありません。ましてや戸郷のせいでも打てなかった打者のせいでもない。皆ベストを尽くした。でも負けた、だけの話です。 井端監督は最終戦は信頼できる戸郷を先発させることにした。いいですか、コレ、井端監督以外の監督でもそのような判断をするでしょう。今季12勝8敗、防御率1.95という素晴らしい成績を上げた戸郷に懸けるでしょうよ、そこは。
WBCで優勝した年に抑えの切り札として登場した投手を振り返ると、「結局勝ったから監督の判断は支持された」となります。 2006年、王貞治監督はサンディエゴ・パドレスで確固たる成績を収めた大塚晶文を送り込み勝利。2009年、原辰徳監督は本来先発のダルビッシュ有を投入、2023年、栗山英樹監督は大谷翔平に任せた。監督は「この選手に任せるのが最良の結果をもたらす」と考えて采配をするわけです。 仮に大塚・ダルビッシュ・大谷が最後にボカスカ打たれて負けた場合、この三人の代表追放運動が発生するか? しないでしょう。一方、監督は一つの敗北で過度に責任を追及される。もちろん、パワハラをしまくったり、いるだけで雰囲気がとにかくドヨーンとし、さらに成績も悪い監督だったら更迭もアリですが、井端監督については、第2回アジアプロ野球チャンピオンシップ優勝も含め、十分な実績を上げています。それをいきなり「#井端辞めろ」は飛躍が過ぎる。 過去にはサッカー日本代表ジーコ監督の更迭を求めるデモが実施されました。ファンは少し結果が出ないとすぐに「監督さえ代わればすべてが改善する」と考えがち。ジーコ監督は2006年のドイツW杯では予選敗退でしたが、その中では柳沢敦の「QBK」もあり、決してジーコ氏が悪い監督だったとは思えません。QBKとは、右SBの加地亮が絶妙なクロスを上げ、あとはFWの柳沢がチョコンと足に当てればゴールしていたのに、あろうことか相手GKの股の間を抜いて外した件。柳沢は試合後「急にボールが来たので……」と答え「QBK」という言葉がネットで誕生。あの時頭を抱えたジーコ監督もアレは不運でした。だから安易に「#〇〇辞めろ」運動はするべきではない。 それはさておき、台湾、初優勝おめでとうございます。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 まんきつ 1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。 「週刊新潮」2024年12月12日号 掲載
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