パンダがあんなに可愛いのは、20世紀の特殊現象? 中国人も気づいてはいなかった!
9月29日に中国に返還される上野動物園のパンダ、シンシンとリーリー。ところで、「パンダが嫌いな人なんていないよね」「誰が見たって可愛いよね」…とはよく言われるところだ。でも、本当にそうなのだろうか? いつの時代も、誰が見ても、パンダは可愛かったのだろうか? パンダ好きの必読書、 『中国パンダ外交史』(家永真幸著)によれば、この「可愛さ」は20世紀に「意外な国」で発見されたらしい。それを中国が外交に利用し始めた、というのだ。 【写真】パンダが「可愛くなかった時代」?
中国古典には見当たらない
東京女子大学准教授の家永真幸氏によると「パンダは、中国の四川省の奥地、東チベットあたりにもともといたはずなので、もし人間にとって根源的に可愛い存在だとすれば、もっと早くパンダ・ブームが起こってもいいはずなんですが、中国の古典にそういう記述があるという研究も見当たらないのです。おそらくなんとも思ってなかったと思うんですよね」という。 1930年代の中国の文献でも「白熊」などと呼ばれており、クマにしては白い奴、というくらいの認識しかされていないらしい。 では、いつから「パンダは可愛い」ということになったのか。 家永氏の著書『中国パンダ外交史』(講談社選書メチエ)によれば、パンダが世界に初めて紹介されたのは、1869年のことである。フランス人宣教師のダヴィド神父が四川省で入手したパンダの死体の、毛皮と骨を本国に送ったのだ。未知の動物の発見は、欧米の動物学者や狩猟愛好家を刺激し、1929年、ついにアメリカのローズベルト探検隊が、欧米人として初めてパンダを仕留めたのである。 しかし、この頃にはまだ、パンダは「可愛い」というよりも「ミステリアスな珍獣」であり、狩猟愛好家の格好の標的だった。その見方を変えたのは、1936年、アメリカの女性服飾デザイナー、ルース・ハークネスが初めて生きたまま連れ帰ったパンダ「スーリン」である。「スーリン」は欧米に世界初のパンダ・ブームを起こす。 〈アメリカにおけるパンダ観の転換は、新聞メディアに如実に表れている。それまでパンダは「ミステリアス」などと形容され、神秘的で不可解な狩りのターゲットとして紹介されていた。しかし、生きたパンダを目の当たりにしてマスコミの表現は一転。スーリンは「穏やかな気質」で「飼い主に対して本当に愛情をもっているようだ」と評される。〉(『中国パンダ外交史』p24) ローズベルト兄弟をはじめとする狩猟家たちも、スーリンを目にして、かつてパンダを撃ち殺した自分たちの行いを反省したといわれるほどなのだ。