おしどり夫婦(9月26日)
タイトルは「おしどり」。どこか、ほのぼのとした響きがある。明治時代、英国から帰化した小泉八雲の怪談だ。鎌倉時代に編まれた「古今著聞集」の民話から着想を得た▼オシドリのつがいが川を泳いでいた。雄鳥を猟師が矢を射って食べる。残された雌鳥が美しい女性の姿で夢に現れ、悲しみを切々と訴える。翌朝、川に行くと、水面から雌鳥が迫ってくる。突然、くちばしで自分の腹を引き裂き、絶命した―。壮絶な最期に愛憎の深さがにじむ▼八雲は原典の民話に出合った時、自らの妻セツを思ったに違いない。一連の傑作怪談は伴侶の支えなくして生まれなかった。セツが語るさまざまな昔話を聞き、細部まで説明を求めた。どんな情景だったか、登場人物の声色は…。物語を際立たせる新たな要素を詰め込み、再構成した。2人の尽きぬやりとりが、おとぎの世界を文学の域にまで昇華させた。きょう26日は、没後120年目の小泉八雲忌だ▼郡山市中田町赤沼地区に似た筋の伝承がある。地元では、古今著聞集の原典と語り継がれているから興味深い。市道沿いに立っている古碑を訪ね、「おしどり」が取り持つ八雲夫婦とのご縁を感じてみる価値はある。<2024・9・26>