脱偏差値型の進路指導で県立進学校に起きた変化 長崎県立諫早高等学校「キャリア検討会」の成果
職員室で「生徒の悪口」が出なくなった
こうしたキャリア検討会を軸とした学校改革の結果、生徒たちは主体的に活動するようになったというが、ほかにどのような変化が見られたのか。 「昔は偏差値が高い生徒が王様であるかのような雰囲気がありましたが、今は入学と同時にキャリア検討会の話をしますし、生徒は偏差値とは異なる別の視点でリスペクトされる道ができたと言えます」 実際、キャリア検討会によって、難関国立大学や私立大学への総合型選抜・学校推薦型の合格者を20名以上輩出する年度が増え、中には偏差値では九州大学程度であった生徒が東大合格を果たした例もあるという。 「まだまだ入試にキャリア検討会の成果が表れているとは言えませんが、大学で起業するなど卒業後に活躍する例も増えています。全国の大学に卒業生を送り込み、生徒たちが10年後をイメージできるようなロールモデルを増やすという目標は、着々と実現されていると感じています。 また、大学に入れば、硬質な文章をしっかり読んで、言語化していくことが基本となります。その際、偏差値は役立ちません。むろんある程度の学力は必要ですが、偏差値と大学教育の内容にはあまり相関関係はなく、長期的には推薦入試の準備で身に付ける力のほうが重要ではないでしょうか」 同校は一般入試で東大に挑戦する生徒向けに「東大寺子屋」という支援もしているが、ここでも勉強以外の武器を持たせるため、試験対策だけでなくPBL型学習も行っている。学校全体で脱偏差値の取り組みが進む中、「いわゆる『偏差値だけが自慢の生徒』も、勉強だけではダメだと活動を始めていますね」と後田氏は言う。 一方、教員側にも変化があったようだ。 「キャリア検討会は当初から、教員の指導観のアップデートも狙いの1つでした。偏差値重視の時代は、『いくら教えてもこの子はできない』などの発言が職員室でよく見られたんです。とくに若手の先生にはその影響を受けてほしくないので、悪口はなくしましょうと最初に先生たちに伝え、検討会でのネガティブワードをNGとしました。その結果、職員室で生徒の悪口が出なくなりましたね。転勤されてくる先生は最初慣れないのですが、これは本校の約束事として根付いたと思います」 また、キャリア検討会のエッセンスは、全員対象の活動にも生かされている。例えば、CDA(Comprehension Development Ambitious)学習と呼ばれていた小論文対策は、自分を表現したり、社会課題を議論したりする形に変わっていった。さらに現在では、総合的な探究の時間において、同じテーマを各教科の教員が分担して掘り下げ、批判的思考を養っていく取り組みに発展している。