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対抗馬の票が割れる混乱のなか現職から東京を取り戻せるか/鈴木涼美

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週刊SPA!

―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]― 6月18日、東京都知事選が告示され、22人の立候補者が確定した。現職・小池百合子氏の対抗馬として弁護士の宇都宮健児氏が立憲、共産、社民の推薦を取り付けて早々に立候補を表明していたが、6月15日に山本太郎氏が立候補を表明。野党支持者は票の食い合いとなって、小池氏を利するだけなのではと懸念している

七つのゼロ点からの逃走/鈴木涼美

「れいわ新選組」という政党名は実はあんまり好きじゃない。幕末の新撰組のファンは多いが、とにかく男と男と男の組織はむさ苦しいし、古き良きニッポンを彷彿とさせる言葉(維新もそうだ)って、ちょっと高度経済成長期ノスタルジーで五輪開催に固執する森喜某や石原慎太某と似た往生際の悪さを感じる。  オンナの私は幕末や高度成長期よりは今生まれて幸運だと思っているし、多様性のあるメンバーを揃えながら、そんな男臭い名前を無自覚に冠しちゃうセンスは、土壇場で立候補を決めて多くの都民を難しい立場に追い込んだセンスとつながっている気がしないでもない。  現職に好都合でしかない足の引っ張り合いがいかに愚策かは言うまでもないが、正直、山本太郎都知事選出馬の速報に頭を抱えた人は少なくないはずだ。百合子からの逃走を企てたい人も、宇都宮健児氏の支持者も、五輪を中止したい人も。実際、弱者に皺寄せがこない社会の実現を描く山本氏と宇都宮氏の政策は重なる点が多い。  山本氏は、違いは財政政策にあると語るが、正直、決定的に違うのは候補者の見栄えとキャラクターだろう。かたや非インテリで情熱的でフォトジェニックな40代、かたや東大在学中に司法試験に合格した知的で弱者救済の実績も豊富なおじいさん。思いは近しい、好みは分かれる。鈴木的には暑苦しい40男なんて全く好きじゃないが、他の選挙よりずっと多くの得票数が必要な知事選ではテレビへの露出や知名度が重要なのも確か。  つまり大まかに想いを共にする有権者が直面しているのは、好みでいくかストラテジーでいくかという問題である。これはオンナの私が若い頃から日々向き合っている「自分の好きな服かモテる服か」という選択に近く、実は答えの出ない壮大な問題だ。  好きな服を着ればいいなんて正論で人生の課題は解決したためしがないし、かといって戦略的選択を繰り返せば自分がなりたかった姿からかけ離れた大人になる。自尊心か人間関係か、誇りか愛か、自我か幸福か、この困難な問いに苦しみつつ揺れてきたオンナからすれば、やはり「新選組」のセンスって、男の「わかってない感」が滲み出る。  都知事という仕事は国会議員や山間部の首長などに比べて実にさまざまな顔がある。地方公務員であり、地下鉄・学校・水道などを有する日本トップ規模の巨大会社である都庁の社長であり、政治家であり、国際都市の広告塔であり、知事会では日本の地方自治の要でもある。  結局、デートや夜遊びには好きな服、合コンや就活にはモテる服、とオシャレと恋に奔走する女子のように、実務者としては誰、都市の顔としては誰、と場面ごとに好みとストラテジーの間で揺れる細かい選択を重ねて、投票日まで四苦八苦するしかない。一言付け加えるなら、政策に関しては副知事の権限は実に大きく、山本氏が宇都宮氏起用を訴えたことは少し参考にはなる。  とにかく私たちがすべきは、かつて七つのゼロを公約に掲げ、4年間見事に「自分のための都政」をしてきた現職知事から、幕末よりかは幾分マシなはずの東京を取り戻すことだ。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!6月23日発売号より ―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]― 【鈴木涼美】 ’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。 著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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