ノーベル物理学賞 「ニュートリノに質量があった」70年の定説覆す大発見
2015年のノーベル物理学賞は、東京大学の梶田隆章博士と、クイーンズ大学(カナダ)のアーサー・マクドナルド博士に輝きました。受賞テーマは「ニュートリノが質量を持つことを示したニュートリノ振動の発見」です。ニュートリノって何? 震えてるの? 自分とは関係ない話に聞こえるかもしれませんが、とんでもない。「私たちはなぜ宇宙に存在するのか」。そんな好奇心をくすぐる謎に迫るかもしれない研究なのです。 【図】ノーベル生理学医学賞 大村智氏が着目した「放線菌」とはどんな微生物? ニュートリノには「大気ニュートリノ」と「太陽ニュートリノ」にまつわる2つの謎がありましたが、それらを解明する鍵を握っていたのがニュートリノ振動でした。
■ニュートリノって何?
ニュートリノは何者なのでしょうか? 身の回りのものをどんどん細かくしていくと、分子、原子、原子核などと進み、最終的にアップクォークとダウンクォークと電子という3つの粒に行き着きます。これらの粒は今のところ、これ以上分けることができない最小の粒「素粒子」だと考えられています。物質を作る素粒子は12種類ありますが、ニュートリノもその素粒子の仲間。「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3つの種類があります。
実はこのニュートリノ、私たちは生まれた日から浴び続けているのです! 体格にもよりますが、1秒間に100兆個ほど浴びています。今この瞬間も。さぁ目をつぶって、よ~く感じてみてください。何か感じますか? 「感じた」という方は、他人にだまされやすいかもしれないのでご注意を。ニュートリノはとても小さく、他の粒とほとんど影響しないので、体の中をスカスカ通り抜けてしまうのです。ニュートリノは70年もの間「質量がない」と考えられてきました。しかし、ノーベル賞を受賞した2人が率いるグループの実験結果により、ニュートリノに質量があることが分かりました。70年に及ぶ定説を覆す大発見だったのです!
■大気ニュートリノの謎
梶田博士とマクドナルド博士が実験に励んでいたころ、ニュートリノにまつわる「2つの謎」がありました。ひとつが「大気ニュートリノ」の謎です。大気ニュートリノとは、宇宙線(宇宙を飛び交う放射線)が大気と衝突して生み出されるニュートリノのこと。宇宙線の粒が大気の原子核にぶつかると、たくさんのパイ中間子が飛び出します。その後、パイ中間子はミューニュートリノとミュー粒子に崩壊し、さらにミュー粒子はミューニュートリノと電子ニュートリノと電子になります。 つまり、ニュートリノに注目すると、宇宙線が大気に衝突して生み出されるミュー型と電子型のニュートリノの数の比は「2:1」になるはず。しかし、後ほど詳しく説明する観測装置「スーパーカミオカンデ」や、その前身の「カミオカンデ」などで観測されたミュー型の数は、予想された数よりもかなり少なかったのです。(後ほど話しますが、地球の上空からやってくるニュートリノと地球の裏側からやってくるニュートリノの数も予想と違いました)。なぜでしょうか?