古舘伊知郎、報ステには「土下座したいほどの悔い」――“自主規制の鬼”と戦った12年
テレビが挑戦的な行儀の悪さを取り戻す――それは12年間、自分ができなかったこと
――テレビ番組でも、求められる言葉や感覚が変わってきていると感じますか? 古舘伊知郎: 僕なんかもう時代遅れが来ていますから。空回りするし、老害が出ていますし、しゃべり過ぎちゃう。今時はワンフレーズをポンと言って、効果的にCMに入れば撮れ高はオッケー。番組にとって、編集しやすいコメントが言える方が、タイパもコスパもいいでしょう? だから、僕なんて最も遠ざけられるタイプだと思います。でも、今になって軌道修正したって中途半端です。いい年格好のじいさんが若者ぶるってイタイじゃないですか。だからもう昭和の香りプンプンで行くしかないと覚悟を決めています。 一方で新人の気持ちでやらせてもらっている仕事もあります。「ゴゴスマ」という情報番組で毎週水曜日にコメンテーターをやらせてもらっています。コメンテーターとしては、まだ自分をプロとは認められませんね。「古舘さんどうですか?」と聞かれるから、必死になって、面白いこと言おうとしたり、格好つけたこと言ったりもしますけど、まだまだです。橋下徹さんや東国原英夫さん、玉川徹さんのような方々がバリバリのコメンテーターだと考えると、僕なんか「古舘はコメンテーターなんてやっていたの?」と思われるでしょうね。それでも新人のような気持ちで続けてきて、この頃は良くなってきたと我ながら思うようになりました。自画自賛とか、我田引水じゃないですよ。結構いいこと言っているので、見ていただきたいですね。 ――報道番組のキャスターを卒業され、現在は情報番組のコメンテーター。引き続きテレビでも活躍されています。古舘さんは「テレビの今後」について、どんな点に注目されていますか? 古舘伊知郎: 未来予測ができれば、長期予報と短期予報が言えたでしょうけど、正直に言えば、全くわかりません。今のテレビが持っている、ある種のお行儀の良さとか、特に内なる自主規制が行き過ぎていないかが気になります。テレビ局全体、組織の運営のために不可欠な自主規制はもちろん必要です。ところが、ステレオタイプや思い込みがどんどん積み上がって、必要以上に危ないと思い過ぎているんじゃないか。そのことをもう1回振り返ってもらって、挑戦的なメディアに立ち返ってもらいたいと思います。 挑戦的であること、ある種のお行儀の悪さを出すことは、報道のキャスター12年間、僕ができなかったことです。自分のことは棚に上げて叫び続けたい。「テレビよ、もう1回、お行儀悪くなってくれ」ってね。そうしてくれたら、僕はテレビにかじりつくぞと思います。だけど、いろんなメディアが台頭している今こそ、そうならないとテレビはもうダメなんじゃないでしょうか。 ただ、テレビがもう一度挑戦的な行儀の悪さを取り戻してくれたら、僕のような古い人間の出番はなくなるのかもしれませんけどね。 ----- 古舘伊知郎 1954年、東京都生まれ。立教大学を卒業後、1977年にテレビ朝日にアナウンサーとして入社し、「古舘節」と称されるプロレス実況で人気を博す。フリーとなってからはF1でも実況を行う。テレビ朝日「報道ステーション」で12年もの間、キャスターを務める。2019年4月からは母校の立教大学の教壇に立つ。初の“実況”小説「喋り屋いちろう」(集英社)が発売中。 文:野崎さおり (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)