ジェット気流が暴れると地上の人間によくないことが起こる
木の年輪からジェット気流の位置を分析し歴史と照合
アメリカ、中国、ヨーロッパ数カ国の科学者による今回の研究では、樹木の年輪のデータから過去700年間におよぶジェット気流の位置を再構築しました。そして、それを疫病や農作物の収穫量、山火事などの記録と照らし合わせて、ジェット気流の変動が人々にどのような影響を与えたかを解明しようと試みたといいます。 ブロードマン氏によれば、先述したイギリスで腺ペストが猛威を振るった期間は、新たに1300年までさかのぼった記録の中で、ジェット気流が最も北へシフトした例のひとつだそうです。 ジェット気流に関する著書があるオックスフォード大学のティム・ウーリングズ気候科学教授は、電子メールで次のように話してくれました。 現在の大きな課題は、今回の研究で得た新しい情報を、どのように気候モデルのテストや改良に役立てるか、そして、将来的にジェット気流がどのように変化するかをより正確に予測することです。 ジェット気流の挙動を中世までさかのぼるのは簡単な作業ではなかったそうです。研究チームは、ジェット気流が通常よりも北にシフトすればイギリスの夏は低温多湿に、バルカン半島や地中海沿岸の夏は高温で乾燥すること(逆にジェット気流が南にシフトすれば、イギリスと地中海沿岸の夏の気候は逆転します)、また、木の年輪の細胞が高密度か低密度かによって、その年の天候がわかる事前知識を持っていました。暑くて乾燥した時期を過ごすと、樹木は細胞を小さくするため、密度が高くなるとブロードマン氏は述べています。 この知見をもとに、研究チームはヨーロッパ各地で採取した樹齢の高い樹木からジェット気流の位置を特定できるか調べました。この方法による過去60年間のジェット気流の変化の予測が信用に足る範囲だったため、木の年輪を用いてさらに1300年までさかのぼってジェット気流の位置を分析しました。 そして、分析結果とヨーロッパにおける感染症や穀物価格などの記録を照合させました。その結果、ジェット気流が極端に北か南にシフトしている時期と、地上で極端な事象が発生している時期が重なっていました。つまり、ジェット気流が通常の位置から極端にズレると、ヨーロッパのある地域で感染症や不作、山火事などの要因となる極端な気象現象を引き起こす傾向にあるのだそう。 例えば、地中海沿岸では、ジェット気流が極端に北へシフトした年は暑くて乾燥するため、山火事が多発しやすくなります。逆にジェット気流が極端に南へ振ると低温多湿になるので、ブドウが不作に陥り、ワインの品質も悪くなる傾向が見られるとのこと。 また、ジェット気流の急激な変動は、この研究でいうところの「連鎖的影響」を引き起こす可能性があります。例を挙げると、農作物の収穫量が激減すれば人々の栄養失調につながり、それによって免疫システムが低下することで、感染症を深刻化させます。病気にかかると畑作業ができなくなって、収穫量がさらに減る悪循環に陥ります。 ブロードマン氏は、今回の研究において、アイルランドの修道士たちが何世紀にもわたって飢饉(ききん)や伝染病について書き留めていたのをはじめ、ヨーロッパの人々が非常に長い間ずっといろいろなことを記録してくれていたことが役に立ったといいます。 確かに、データがあっても歴史的な出来事がわからなければ点と点をつなげられませんものね。