飲食店で女性スタッフから逆ナンパと思いきや…誘ってくれた深刻な理由【コラム】
33年前、まだ私が20代の頃、就職先の東京で体験した話です。ある日、当時何度か行っていた飲食店で、不意に女性スタッフからメモを渡されました。彼女の名前は典子さん(仮称)。有名な美術の大学生で、可愛らしい目のクリッとしたボーイッシュなルックスでした。メモにはデートのお誘いなのか、待ち合わせ場所と時間が書かれていました。 日曜日、私がドキドキ感を持ちながら待ち合わせ場所にて5分前から典子さんを待ち、近くのイタリアンレストランでランチを取りました。渋谷の街を手を繋いで散歩しながら、なんだか恋人と言うより友達感覚だなぁと不思議な気持ちにさせる時間を過ごしていました。 そして、そんなデートを何回か重ねたある日、日が落ちた時にそっと耳元でこう告白されました。『私は、中学から女子校に通っているんだけど、女性の先輩と付き合っていたの。今でも女性しか好きになれずにいて、このままでは結婚出来ないので、親にお見合いを勧められたりしているので、お母さんの為に男性を好きになれるように練習相手になってくれませんか?大学卒業するまでに男性を好きになれるようになりたいんです』。独身で地方から出て来て知り合いの少ない私からすると、どうであれ、この変わった付き合いをしてみようと思い、その提案を受け入れました。 しかし、日中は楽しくデートをして夜の時間になると、どうしても男性を受け入れる事が出来ずに泣き出すこと数回。そしていつも典子が謝ります。『ごめん』。彼女は夜は、男性との会話を練習するために大箱のキャバレーでホステスのアルバイトをするほど、男性を好きになれるように努力していました。 数ヶ月が経ち、彼女に打ち明けられました。『私はやっぱり先輩が好き。この想いは忘れられそうもないし、貴方の負担になると思うので別れましょう』。私は彼女の思いを受け入れました。典子さんが幸せに差別を受けること無く好きな人と暮らしていてくれていたら良いなと思っていたからです。 人は、好きになった人と暮らして良いと思います。典子さんが苦しんだように、両親への想いや周りの目から自身の想いを伝えづらい現状があるかもしれません。33年前と制度もほとんど変わっていない今の世の中。制度の在り方一つで幸せな人を増やすことができるならば、変えるべきだと思っています。6月はプライドマンス。同性パートナーシップ制度から先進国の多くでは進んでいる同性婚の制度が、この日本において整うことを願っています。(なろっさ!ALLYさばえメンバー加藤裕之) × × × この記事は、公募した「ゆるパブコラムニスト」から福井新聞社に寄せられたコラムです。