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日清食品が放つ近未来の「謎肉」 培養ステーキ肉は食卓を変えるか

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日経クロストレンド

 世界で巻き起こる食分野のイノベーション、「イノベー食」を取り上げる本特集。第3回の今回は、日清食品ホールディングスと東京大学が開発を進める「培養ステーキ肉」を取り上げる。将来的には、近場の培養肉工場から自分好みの“フレッシュミート”が届く世界もあり得る、その技術インパクトに迫る。 【関連画像】日清食品ホールディングスと東京大学が開発に成功した世界初サイコロ状の“培養ステーキ肉”(写真提供/日清食品ホールディングス)  ピンク色の液体が入ったシャーレの中央にある約1センチメートル角の白い物体。これは、日清食品ホールディングス(HD)が東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授と共同研究を進める、ウシの筋細胞から作製した培養ステーキ肉の現在地だ。  両者は2025年を目指して、縦横7センチメートル、厚さ2センチメートルの“肉塊”を生産する基礎技術を確立する計画。イスラエルのスーパーミート(Super Meat)やオランダのモサミート(Mosa Meat)、米国のメンフィスミーツ(Memphis Meats)など、培養肉の研究が爆速で進む世界を見渡しても、厚みを伴う培養ステーキ肉の技術開発は異例で、日清食品HDと東京大学はトップランナーと言える存在だ。  日清食品の主力商品「カップヌードル」に使われるサイコロ状の具材“謎肉”は、大豆由来の素材と豚肉などを掛け合わせた“大豆ミート”であることで知られる。開発中の培養ステーキ肉は、まさに人類にとって未知の食料であり、文字通り近未来の“謎肉”である。では、なぜ日清食品HDが、植物肉より実現のハードルが高い培養肉の研究を進めているのか。 ●ステーキ肉製造のカギはEMS?  背景には、世界人口の急速な増加に伴って激増する食肉需要と、それに比して拡大する畜産業が環境破壊の一因になりかねないことがある。ある調査では、牛肉1キログラムの生産に必要な資源は穀物などの飼料11キログラム、水20トン以上と言われ、牛のゲップや排せつ物から出るメタンガスは地球温暖化の元凶にもなる。  それに対して、ウシの細胞を増やしてつくる“培養肉製造工場”が実現すれば、環境負荷を圧倒的に下げながら、極めて衛生的な環境で生産された安心安全の食料を届けられる。もちろん、従来の畜産業は継続しながら、今後増える食肉需要の分を培養肉で補っていくイメージだが、培養肉が背負う社会的意義は大きい。  こうした背景に真正面から向き合い、かつ新たな需要を刈り取る次世代事業として、日清食品HDは培養ステーキ肉の研究開発に取り組んでいる。「世界で開発が進む培養肉は『ミンチ肉』ばかりだが、世界の牛肉消費量の90%以上は塊肉だと言われている。そのため、我々は消費者ニーズの高いステーキ肉に近づけることを最初から照準に据えている」(日清食品ホールディングス グローバルイノベーション研究センターの仲村太志課長)と話す。  培養ステーキ肉の開発に当たって、日清食品HDと東京大学が目標に定めているのは、本物の肉の構造を再現してステーキ肉特有のかみ応えを出すことだ。通常、単にウシの筋細胞を培養液に浸すだけではシート状の培養肉にしかならない。それは、繊維状の筋組織(サルコメア)がランダムな方向に増殖してしまうためで、筋組織が一方向に並び、立体構造を持つ本物の肉とはまるで別物だ。つまり、目指す十分なかみ応えも望めないということになる。  そこで取ったアプローチは、筋芽細胞を入れた細長いコラーゲンゲルを横に並べ、内部まで培養液が浸透するよう等間隔にスリットを空けた2種類のモジュールを交互に積層していく方法だ。こうすると、筋芽細胞はきれいに向きがそろったサルコメアに成長し、本物の筋肉の立体構造もに近づけられることが分かった。  この筋細胞モジュールを42枚積層し、7日間培養してでき上がったのが、冒頭で紹介した約1センチメートル角の培養肉で、その研究成果は2019年3月に発表され、世界で大きな話題を呼んだ。  それから約1年、最新の研究成果もある。それは電気刺激を加えて筋組織の収縮を起こし、筋肉を成熟させる技術だ。要するに、お手軽トレーニング機器として知られるEMS(Electric Muscle Stimulation)と同じ要領で、微量の電気刺激で筋肥大を促すということだ。「電気刺激により、筋肉中のタンパク質や筋繊維が増えることが確認できており、食感などがより本物の肉に近づく期待がある」(仲村氏)と話す。  しかし、現状は培養液の成分を含めて試験的なものなので、作製した培養ステーキ肉をまだ誰も口にしてはいない。それを、この僅か5年の間で人間が食べられる状態で、かつ味わいや匂い、見た目などもできる限り本物の牛ステーキ肉に近づけていくという。そのために、本来ある血管や脂肪も再現するのがいいのか、血液の成分が含まれていれば本物に近づくのかなど、試行錯誤を続ける。並行して培養液などの高価な素材のコストダウンを図り、実用化時のターゲットとしては100グラム数千円が相場の通常の牛ステーキ肉と同等か、少し高いレベルを目指しているようだ。  こうして培養ステーキ肉が完成した先には、自在な商品設計が可能だ。例えば、機能的な脂を使って和牛の霜降りを再現しながらヘルシーさを出したり、逆に脂肪分を優位に下げてタンパク質の含有量を増やしたりといった具合だ。先行して市場投入が進む植物肉では、心血管疾患のリスクを高めると言われる飽和脂肪酸や、塩分が通常の肉より多く含まれる“不都合な真実”が指摘されているが、「培養肉は健康上の懸念があるものを加える必要がない」(仲村氏)というメリットもある。また、いずれは牛肉以外でも、培養マグロや培養ウナギなど他の食材にもチャレンジしていける。

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