すべての観光客がコロナ患者だと考えて迎え入れる――経済との両立、沖縄の医師が語る「腹の括り方」【#コロナとどう暮らす】
段階的な「感染防衛線」を設定する
──現状、感染者数は非常事態宣言の頃よりも増える傾向にあります。一方で、経済もこのまま自粛ではもたない状況です。どうするのが良いのでしょうか。 感染から守るべきラインを明確にし、それを共通認識とすることだと思います。私は沖縄についてしか例示できませんが、3つの防衛ラインがあると思います。 最初の防衛ラインとは、観光客との接触のある観光従事者たちを守ることです。タクシー運転手、ホテルスタッフ、そして観光客向けのレストラン店員などですね。次の防衛ラインは、観光客から地元市民への感染拡大を防止することです。たとえば、レストランでは、地元の高齢者と観光客が隣り合ったテーブルにならないような配慮とかですね。そして、死守すべき最終防衛ラインは高齢者施設や病院には広げないようにすることです。 ──その防衛ラインを守るには観光客、県民、どちらも注意が必要ですね。 もちろん観光客ばかりでなく、本土からやってくる親戚、あるいは本土に旅行に行く沖縄県民も要注意です。こうした防衛ラインを守るために呼びかけていく必要があると思っています。 ──今の東京は100~200人の感染者が「夜の街」を中心に毎日続いていますが、そうした段階的な防疫施策は何もしていないように映ります。 それくらいの感染者数が大都市における新型コロナの定常状態なのかもしれませんし、今の状態をことさらに怖れる必要もないと思っています。ただし、今、日本がとっている施策では、感染者数の増加を封じ込めることは難しいのではないですか。少なくとも、小池都知事は「夜の街」界隈の人たちを防衛ラインの外側に置いていますよね。営業をやめさせることもしてないわけですから。 ──「要請」ではもはや効果がないという状況と映ります。 見方を変えれば、「夜の街」は集団免疫の先行事例になるのかもしれません。「夜の街」における持続流行の末に、徐々に沈静化していくのか、あるいは働く人たちが再感染しながら流行が続くのか。あるいは、再感染するのだけど、ほとんど軽症か無症候になっていくのか。重要な学びがあると思います。 ──最後にもう一度、米兵での感染問題に触れます。まだ拡大が続いているさなかですが、基地内の隔離や医療で米兵の感染は収まるのでしょうか。 すでに、米軍は徹底して検査を行い、感染者と濃厚接触者の行動制限をかけています。軍の規律をもって徹底すれば、しっかり封じ込めると思います。むしろ、私が心配しているのは、基地の外にどれだけバラまかれたのかです。沖縄の「夜の街」に潜伏している可能性も残っています。 とはいえ、これからも事態は刻々と動くでしょう。かつて、ハンセン病に向き合ったとき、私たちのなかにある恐怖や偏見が明らかになりました。新型コロナもまた、私たちの社会の弱点を突きながら、何かを教えようとしているのかもしれません。だから、逃げてはいけません。 --- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞、『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。