追加緩和は米の利上げ次第?「後出しジャンケン」狙う日銀のシナリオとは
比較的多数の市場参加者が「追加緩和予想」
他方、日銀の追加緩和を予想する声は比較的多く、日経QUICKが市場参加者を対象に調査したところ23%が6月の追加緩和を予想したといいます(調査時点は6日)。しかしながら、筆者は“タイミングが合わない”という事情から、日銀が追加緩和を見送ると予想しています。 確かに(1)USD/JPYが105-110という日銀にとって望ましくない水準で推移を続け、(2)日銀が重視する新型コア物価(全体の物価から生鮮食品・エネルギーを除いたもの)の前年比上昇率が4月に節目の1%を割り込み、更に最近は、今まで日銀に支援的なデータであった(3)名目賃金(毎月勤労統計ベース)も上昇率が鈍化してきたので、日銀が動いても不思議ではありません。
追加緩和、タイミングを間違えると効果なし?
ただ、問題はタイミングです。日銀は1月29日の苦い経験を教訓に、追加緩和はそのタイミングこそが命であると、考え方を変えている可能性があります。日銀は1月29日にサプライズを演出する意図もあって、意表を突くタイミングでマイナス金利導入を発表しましたが、その期待される効果(円安・株高)はわずか数日しか持続しませんでした。 当時の状況を整理します。2016年1-3月期は米経済指標が軒並み悪化、予想比下振れが常態化していたので、金融市場では、米経済減速とそれに伴うドル安の強い風が吹いていました。日銀はそうしたドル安の風を跳ね返すべく追加緩和に踏み切ったのですが、結果はあえなく惨敗となり、メディアで「逆噴射」と酷評され、市場関係者の間にも「金融政策限界論」を巻き起こしました。 同時期に追加緩和を実施(あるいは強く示唆)した欧州中央銀行(ECB)、スウェーデン中銀もドル安基調を反転させることができなかったという事実を踏まると、日銀の政策が逆効果だったと決め付けるのには証拠不足ですが、少なくともタイミングを間違えると期待された効果が得られないことがわかりました。
緩和効果が高まりそうなタイミングは?
反対に最も緩和効果が高まりそうなタイミングは、FRBが利上げに動き、ドル高の風が吹いているときでしょう。日本は金融緩和(一般論で通貨安政策)、米国は利上げ(一般論で通貨高政策)となれば「日米真逆の金融政策」というわかりやすいメッセージを市場に発することができるため、その効果(円安)が得られやすいでしょう。日銀が、残り少ない“弾”をどこで使うかを考えたとき、浮かび上がるのはFRBが利上げを決定した数日後の日銀金融政策決定会合です。 思い返せば、量的・質的金融緩和(QQE)を導入した2013年4月は米国の成長率が上向き始め、ドル高が進みやすい地合にあり、2014年10月のQQE2導入時は米国経済の成長軌道が強く、「初回利上げ」が意識され始め、ドル高の足音がはっきりと聞こえている時期でした。日銀は再びドル高の風が吹くのを待っているでしょう。FRBの利上げに動くとき、同時に日銀が追加緩和に踏み切る可能性が高いと判断しています。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。