<八重山教科書問題>問われた国と地方の教育の「責任」
3年近くにわたり混迷してきた沖縄県八重山地区の教科書採択問題が、ようやく決着しました。沖縄県教育委員会が竹富町を単独の採択地区とすることを決め、来年度から「違法状態」が解消される見通しになったことを受けて、下村博文文部科学相が違法確認訴訟を断念したからです。
再燃防ぐための法改正が「裏目」に?
竹富町には2012年度以来、育鵬社版を採択するとした八重山採択地区協議会の決定に反して東京書籍(東書)版を採択したという理由で、中学校の公民教科書が国から無償給与されていません。文部科学省は地区内で同一教科書を採択するとした教科書無償措置法に従うよう再三指導を続けたのですが、竹富町はこれに従わず、ついに下村文科相が3月、地方自治法に基づく是正要求を出しました。それでも竹富町が篤志家の寄付により購入した東書版の配布を続けたため、後は文科省が地方自治法上の違法確認訴訟を起こすかどうかが焦点になっていました。 一方、採択問題の再燃を防ぐため地区内の協議ルールを明確化するなどとした無償措置法の改正案が4月に可決・成立しました。この中で採択地区の設定単位が「市郡」から「市町村」に改められたことに着目した竹富町教委は、八重山採択地区(他に石垣市と八重山郡与那国町)からの離脱を沖縄県教委に要望。県教委もこれを認める方針を5月22日、前川喜平初等中等教育局長に伝えました。違法状態は今年度限りとなることが確実になり、下村文科相は翌23日、訴訟断念を表明しました。「違法確認訴訟には時間が掛かり、結論が出ても途中から教科書を変えることが子どもたちにとって望ましいかどうか、トータルに判断した」と説明しています。
法の「趣旨」が法に阻まれる
改正無償措置法で「市郡」を「市町村」と改めたのは、郡域を超えた市町村合併が進んでいる実態を反映させたものであって、小規模町自治体の単独採択を認める趣旨ではない、と文科省は説明しています。どの教科書を採択するかの調査研究には一定数の教員数が必要であり、教科書を統一しておけば生徒が地区内に転校しても教科書が変わらないメリットがある、などとして共同採択制度の意義を強調。その上で「自然的・文化的・経済的な一体性を持ったところが共同採択地区として採択するのが法の趣旨」だとして、竹富町の独立をけん制していました。 しかし採択地区を設定するのは無償措置法上、都道府県教委の権限です。下村文科相は、前川局長を通して沖縄県教委に、(1)今後、竹富町で十分な調査研究に基づく採択が行われるか丁寧なフォローアップを行う、(2)その結果、不適切な実態があれば八重山採択地区への復帰も検討すべきである――と指導したことを明らかにし、「今後の取り組みを注視していきたい」と述べるにとどめました。