湖面の氷がせり上がる「御神渡り」8年連続出現せずの古記録…本当に暖冬だった? 未解明の日本の冬、過去1000年の詳細を解析へ
■御神渡りの記録から暖冬だった時期を解明
長野県の諏訪湖の湖面が凍ってせり上がる「御神渡(おみわた)り」の記録を基に気候変動を研究してきたお茶の水女子大の長谷川直子准教授(自然地理学)=諏訪市生まれ=らのグループが、諏訪湖底の堆積物や木曽ヒノキの年輪、全国各地の気象記録を調べ、詳細な日本の過去千年程度の寒候期(11月~翌年4月)の気候の解析に乗り出した。気温に代わる複数の「プロキシ(代替データ)」を組み合わせる手法「マルチプロキシ」により、これまで明らかになっていない日本の寒候期の気候を解き明かす。 【写真】樹齢570年の木曽ヒノキ。年輪の幅や密度から過去の気候を導き出す。
研究グループの長谷川准教授と三上岳彦・東京都立大名誉教授(気候学)らは長年、八剣神社(諏訪市)などに残る約600年間の御神渡りの記録と気候の関係を調査。全国の気温の記録も調べて突き合わせ、列島全体の暖冬だった時期などを解明した。
■夏の解明に用いられてきた堆積物や年輪と組み合わせ分析
三上名誉教授によると、湖底堆積物や年輪は暖候期(主に夏)の気候の解明に用いられてきた。この手法と気象の記録を組み合わせれば、より精度が高い寒候期の分析も可能になると判断。8人の研究者で申請し、国の科学研究費助成事業として2027年度にかけて進める。
御神渡りや結氷の記録のデータベース化をほぼ終え、25年は活用を本格化。年単位の御神渡りの記録を生かしつつ、地球科学や年輪年代学などの専門家による各分野の知見を踏まえ、より長い年代の気候を統合的に解明する。
■諏訪湖の堆積物から当時の気温を推測
研究グループは昨年10月下旬、高知大海洋コア国際研究所客員教授の公文富士夫・信州大名誉教授(地球科学)を中心に、諏訪湖の湖心の堆積物を約3メートル採取。厳冬期が短いと通年で湖内の生物生産量が増加し、沈積する有機物量が増えることに着目し、約400年前からの湖底堆積物を詳細に調べて試料内の有機炭素量から当時の気温などを推測する。
年輪幅が細かく緻密な木曽ヒノキもプロキシの一つ。鳴門教育大の米延仁志教授(年輪年代学)と信大農学部(上伊那郡南箕輪村)の安江恒(こう)准教授(年輪生態学)は、遺跡に残る数百年前の木曽ヒノキの木材や現生木を調べ、年輪の幅や密度から過去の気候を導き出す。