貴景勝に3度の密着取材で伝わった相撲を背負っていく覚悟 近くで感じていた「勝っておごらず」
貴景勝の引退を特別な思いで見届けた人がいる。ドキュメンタリー番組で3度の密着取材を敢行した武藤靖プロデューサー(54)だ。今も親交がある同氏がスポニチに特別寄稿した。 貴景勝関、本当にお疲れさまでした。私は3度、密着取材をさせていただきました。引退会見で口にした「勝っておごらず…」は、近くにいてずっと感じていたことです。勝っても負けても、インタビュー一つ姿勢が変わることはありませんでした。 最初に「情熱大陸」で密着したのは19年1月、三役として2場所連続で2桁勝利を挙げた初場所でした。私は他の力士も取材経験がありますが、貴景勝関は「基礎運動を徹底的に、手を抜かずにやる」という印象でした。突き押し相撲で、身長が低い力士がどうやって戦っていくか。体重と筋肉のバランスに細心の注意を払っていたのも印象的でした。また、小さい子供に人気が高く、どんな状況でも、その子供たちにはファンサービスを欠かさなかった。いい笑顔がたくさん撮れたことも思い出です。 一方で大関昇進後は、責任を一身に背負い続けていたように思います。昨年の秋場所千秋楽、熱海富士関との優勝決定戦。勝ったあと「大関として絶対に負けられない一番だった」と吐露したことがあります。相撲界は番付社会。「負けたら歴代の力士たちに顔向けできない」とも話していました。令和の時代に、ここまで責任を背負い込む若者がいるのか、と思いました。 体のケアには凄く時間をかけていたと思いますが、苦しみや痛みは絶対に見せなかった。日本で生まれた相撲という神事をずっと背負っていく覚悟があるのだと思います。次はちょっと昭和の香りがする、芯の太い“お相撲さん”を育ててくれると信じています。