いまプーチンが最も恐れる“過激派の女スパイ” ユリア・ナワルナヤが語る
ナワルナヤが仕掛ける外交攻勢
現在、人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ファウンデーション」の代表を務めるナワルナヤは、「新しい人生」を始めている。その役割は心地良いものなのだろうか。 「そばに夫がいないことから始まり、すべてが新しいことばかりです。その質問に答えるのは難しいです。というのも、心地良いかどうかという問題ではないからです。そうではなく、これは、信念を貫くために、子供たちのために、夫への想いのために何をすべきか、という問題なのです。やるべきことをやる、ということです。 自分のなかにさまざまな思いがあって、その実現のために行動していれば、自らと調和して生きていると感じます。ですから、自分であるという意味で心地良さを覚えます。やるべきことをしているわけですから」 明らかな例は、2024年3月のロシア大統領選だ。ナワルナヤはロシアで未解決の容疑を抱えているにもかかわらず、不可侵性が認められるベルリンのロシア領事館に出向いて投票し、逮捕されるリスクを冒した。「私は、ロシア当局が最も捕えたがっている女の一人なんです」とナワルナヤは言って笑う。 「私は過激派とテロリストのリストにも名を連ねています。ですから気をつけてください。あなたはいま、スパイとされているだけでなく、過激派でもある人物を取材しているんですよ。私、とても危険なんです」 こうしたナワルナヤの大胆かつ予測不可能な言動が彼女を、現ロシア政権が恐れる人物にしている。彼女のインスタグラムは、世界の要人たちと一緒に撮った写真で溢れている。ナワルナヤは今後、起こりうることに備えて、彼らと緊密な協力体制を構築しているのだ。彼女はさらに、ナワリヌイとは必ずしも良好な関係ではなかった有名なロシア人亡命者たちとも会い、共に行動していけるよう関係を築いている。 また彼女は、ほかの反体制派と異なり、ロシア人を「善人」と「悪人」に分けるにあたっては極めて慎重だ。さらにナワルナヤは「英雄になる義務は誰にもありません」と言う。彼女は同胞に、政権を弱体化させるためにいますぐ己を犠牲にしろと言うのではなく、「小さなこと」をするよう常に呼びかけている。 ナワルナヤの外交攻勢の成果の一つは、米「タイム」誌の「世界で最も影響力のある人」特集の表紙に採用されたことだ。また、彼女に関する記事を寄稿したのは、大変特別な人物──カマラ・ハリスだった。ナワルナヤの娘のダーシャは、その恩に報いようとするかのように、大統領選では、激戦州ペンシルベニア州でハリス陣営のボランティアとして働いた。 それは単なる偶然かもしれないし、あるいは若いダーシャの気まぐれかもしれない。だが、もしかしたらロシア政府が恐れる、抜け目のないナワルナヤが、いつか役に立つかもしれないところにチェスの駒を置いておこうとしたのかもしれない。ナワルナヤはこう語る。 「娘が経験したことを将来、私たちの祖国、ロシアで活かせると信じています。私たちがこれまで経験したのとはまったく異なる大統領選を実施するために」
Gonzalo Suárez