【作家・遠野遥インタビュー】学校からポルノビデオが支給される!? 新作『教育』で見せた新たな一面
芥川賞作家の遠野遥が、受賞後第1作『教育』を上梓した。舞台は、超能力を習得するための全寮制の学校だ。生徒たちが懸命に取り組んでいることのひとつが、1日3回以上のオーガズム。成績が上がりやすいと言われ、学校からポルノビデオまで支給されている。彼らはセックスも盛んだ。単行本に先がけて文芸誌で発表した際には、鮮烈な内容に驚きの声が上がった。この小説はいかにして生まれたのか。遠野に聞いた。 【遠野遥の新刊『教育』】詳細をもっと見る
Perfumeの世界観に着想を得た設定
――着想のきっかけを教えてください。 PerfumeのMVです。『Spending all my time』という曲で、制服のような衣装を着た3人が超能力のトレーニングをしていました。それがすごくミステリアスで、これでなにか書けそうだと思ったんです。 ――でも、この小説にはほとんど超能力を使うシーンが出てきませんね? 超能力が存在する世界をそのまま書くと、エンタメ色が強く出過ぎてしまうと思いました。超能力を使うためにそれらしいことをさせるより、それとは全く結びつかないようなことをさせた方が面白いと思ったんです。 ――だから「1日3回以上のオーガズム」なんですね。 そうです。それ自体になにか理由があったわけではないんです。この小説では、誰も超能力を身につけることができない滑稽さも含めて書きました。
“男性中心”の現実社会に違和感
――学校では、女子生徒よりも男子生徒のほうが居心地がよさそうです。 そこは意識したところです。先生が全員男性で、成績が上のクラスもほぼ男子生徒だけ。食堂のメニューや支給されるポルノビデオも女子生徒向きではありません。 ――なぜその設定に? 現実社会でも、重要な会議のメンバーはある一定の年齢以上の男性だけだったりすることに違和感を覚えたからです。現実にある歪みをアンプにかけて増幅させるような感じで書きました。 ――女子生徒の中には違和感に苦しむ子もいました。 おかしいと感じても集団にいる以上、適応した方がラクなんです。だけど当然、適応できない子もいる。でも、「おかしい」と声をあげることをためらってしまうんです。 ――成績による上下関係もはっきりしていますね。 私自身が小学校から高校までスポーツをやっていて、上下関係があったり、規律が厳しかったりする環境にいたことと関係しているのかもしれません。 ――女子生徒はどの子も個性的です。 しっかり書き分けました。女子は普通こうだろうという先入観を排除して、それぞれをフラットに書こうとしたのがよかったんだと思います。