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「聖水」青来有一 いかにナガサキを脱するか 【あの名作その時代シリーズ】

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西日本新聞
「聖水」青来有一 いかにナガサキを脱するか 【あの名作その時代シリーズ】

救いとなるはずの聖水も、邪心により黒く濁り、人の運命を狂わせていく

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は08年1月20日付のものです。 **********  夏になると、長崎市は「ナガサキ」や「NAGASAKI」になる。  被爆直後の荒廃を記録したモノクロ影像がテレビに流れ、八月九日には平和公園で行われる厳粛な祈りの光景が全国に伝えられる。原爆被害の悲惨さを知らしめ、核兵器廃絶のメッセージを発し続けるナガサキ=NAGASAKIは聖性と正義というイメージをまとっている。一方、現実の「長崎」には、ごく当たり前の現代の暮らしが息づいてる。優しさや温かさがあれば、偽りや汚濁もある。平和公園の隣にはラブホテルが林立している。  「既成のイメージを引き受けた上で、それを逆転する、ゆがめるといった試みがないと、長崎を書いたことにならないのではないか」。世界に二つしかない原爆被災地という記号化したナガサキから脱する試みを、長崎を舞台に小説を書くという方法で続けているのが青来有一である。  青来が描くのは、妄想あり、カルトあり、ファンタジーありの、少し不思議な長崎。核廃絶の訴えも、凄惨(せいさん)な被爆体験も出てこない。だが登場人物や土地の奥底に眠る記憶をなぞっていくに従い、静かに原爆がもたらした陰影が浮かび上がってくる。

本文:2,815文字

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