エンジンが炎に包まれたジェット機は、こうして墜落せずに無事帰還した
3,000mの上空を飛行中の機内で、配られたプレッツェルを食べながら窓の外に目を向ける。するとエンジンが炎に包まれ、金属片が次々と落下していく様子が目に入ってきた──。コロラド州デンヴァー発ホノルル行きのユナイテッド航空328便の乗客は2月20日(米国時間)、そんな悪夢のような展開を離陸後まもなく体験することになった。 工場から“墓場”まで、飛行機の知られざる一生を「真上」から切り取った美しい写真19選 1基のエンジンだけで飛行する約230トンのジェット機は、片翼で飛ぶコンドルのようにも思える。そして、エンジンが炎上したこのボーイング777型機がもたらすあらゆる危険性を考えると、飛行を続けるという選択肢の優先順位はかなり低かったはずだ。 特に同機のプラット・アンド・ホイットニー製のPW4000型エンジンから非常に大きな破片が次々と落下したデンヴァー郊外は、大きな危険に晒されることになった。しかし理論的には、炎上しなかったほうのエンジン1基だけでも、十分に残りの飛行を遂行できたのである。 大型の航空機は、昔からずっと1基のエンジンだけで飛行できたわけではない。米連邦航空局(FAA)は何十年もの間、エンジン2基を搭載する双発機による1時間以上の飛行を許可していなかった。中西部から太平洋の楽園まで飛行するにも、まったく足りない時間である。 ボーイングの歴史をまとめたロバート・J・スターリングの1991年の著書によると、ボーイングが1980年に規則を変更するようFAAに要請したとき、当時FAA長官だったリン・ヘルムスは「双発機に長距離水上ルートを飛行させるなんて絶対にありえない」と主張していた。当時はエンジンが1基故障した場合でも、頼れるエンジンが少なくとも2基は残っていたことになる。 最終的にFAAは主張を和らげ、規則で定められた60分の飛行時間は120分になり、1980年代後半には180分まで延長された。リスクを受け入れたからではなく、その方針転換はエンジンの改良のおかげだったのである。 「エンジン1基は、航空機の飛行を維持し、必要なら上昇させるために十分な推力をもっていなければなりません」と、ミシガン大学の航空宇宙エンジニアのエラ・アトキンスは語る。離陸時にエンジンの故障が発生するなどの最悪のシナリオにも、これは当てはまる。必要なら、正常なエンジン1基だけで飛行できる十分な強度がエンジンには必要なのだ。