「最後までしっかり聞いてください」東電幹部に異例の「13兆円判決」 名物裁判長の“出世とトラブル”
東京電力の福島第一原子力発電所の事故について、初めて東電幹部ら個人の責任を問う判決が7月13日、東京地裁で下された。当時のトップ、勝俣恒久元会長ら旧経営陣4人に言い渡された損害賠償額は実に13兆円余り。画期的な判決は朝倉佳秀裁判長の異例の“お断り”から始まった。 【画像】損害賠償の支払いを言い渡された勝俣恒久元会長 「7カ月かけて書いた判決です。最後までしっかり聞いてください」 提訴から10年以上、結審から約7カ月後のこの日、朝倉裁判長は“お断り”を済ませると、「4人は東電に約13兆円を支払え」と判決主文を二度繰り返した。判決は勝俣元会長らが事前に津波を予測でき、対策を取っていれば事故も防げたと結論。その個人の怠慢が東電に13兆円の損害をもたらしたとするもので、傍聴席や原告側の席からは拍手が沸き起こった。 司法担当記者の解説。 「これまで避難者が損害賠償を求めた民事訴訟や、勝俣元会長らの刑事責任を問う刑事裁判がありましたが、経営者個人の責任は認められなかった。刑事裁判に至っては一審で無罪判決です。今回の判決は、その流れを覆す極めて重要な判決といえます。ただ、朝倉裁判長は裁判官として初めて原発を視察したり、東電幹部を質問攻めにしていただけに厳しい判決が出るとは予想されましたが、まさか13兆円とは……」 この朝倉裁判長とは何者なのか。早稲田大学を卒業後、1993年に判事補任官。民事畑を歩んできた。
エリートコースを歩んできたが、訴訟トラブルも…
「昨年11月には、大手遊技機メーカー『ユニバーサルエンターテインメント』の子会社の資金を流出させるなどしたとして、創業者の岡田和生氏に約20億円を支払うよう命じる判決を下しています」(同前) 一方で、フランス内の総領事館に出向経験があるほか、最高裁の民事局の課長や給与課長を歴任。2019年には内閣官房内閣審議官として民事訴訟のIT化などにも関わるなど、裁判所での出世に重要な行政マンとしての手腕も発揮してきた。同期の中でもエリートコースを歩み、順調なら最高裁判事まで上り詰める可能性もあるという。 「ただ、朝倉裁判長は自身が指揮した審理を巡り、訴訟トラブルを抱えていました」(同前) 発端は、ある女性弁護士が不公平な裁判を行う懸念があるとして朝倉裁判長に対し、忌避申立て、つまり担当替えを求めたことだ。 「すると別の訴訟で、朝倉裁判長はこの弁護士の都合がつかない曜日にばかり期日を入れようとした。忌避申立ての意趣返しと受け止めた彼女は、国と法務大臣を相手取った国家賠償請求訴訟に踏み切ったのです」(同前) 更なる出世を果たすには、厳正中立な“訴訟指揮”が欠かせない。
「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年7月28日号