ほぼ日手帳、売上高の過半は海外 書き込みたくなる工夫 「ほぼ日手帳」(下)
多彩なコラボ商品 所有のよろこび誘う
発売以来、購入者からの声に耳を傾けてきた。アンケートへの回答を求め、ユーザー座談会を開く。方眼サイズの変更にあたっては議論を重ねて「3.7ミリメートル」を選んだ。たくさんのポケットを備え、2本のしおりが付くカバーにもユーザーのニーズが映し込まれている。しかし、ユーザーの言いなりになっているわけではない。 例えば、「『ほぼ日手帳』は重い」「もっと小さくして」という声を受けて開発された「カズン」が一例だ。主力のA6(文庫)サイズの倍の大きさがある。あえて大きくて重い手帳を作ることによって、「A6タイプが相対的に軽く感じられるのではないか」という発想から生まれた。今では文庫サイズに次ぐ人気商品だ。 カズンの登場は初代商品から約8年後。年の前半と後半で分けて使える「ほぼ日手帳avec分冊版」は2015年から発売した。ユーザーの声は重んじるが、安易に従わず、ほぼ日流に練り直すアプローチは、その後の商品開発や仕様変更にも受け継がれている。 公開されたオーナーたちの実例を見ると、想像以上に自由だ。日付を無視して、空きページに書き込むのは序の口だ。公私は混同。貼り込む。破る。妄想する。みんなの知恵が共有されて、さらに使い方が広がっていく。単に手帳の使い方が変わるのではなく、日々の過ごし方まで変わる「気づき」をもらえるのは、「LIFEのBOOK」と位置付けられた、ほぼ日手帳ならではだ。
外部ブランドや表現者と組んだ幅広いコラボ商品
外部のブランドや表現者と組んだコラボレーション商品の幅広さは群を抜く。2023年版では『ONE PIECE magazine(ワンピースマガジン)』とのコラボにより、漫画『ONE PIECE』版の「ほぼ日手帳」を制作。2025年版でも継続している。デザイン、サイズの選択肢が多いから、「3冊を併用する人が珍しくない」(小泉氏)という。 所有するよろこびを味わえるのも、ほぼ日手帳の魅力だ。「携えるアート作品」のようなカバーが多い。 コラボ相手のラインアップには目を見張る。ファッションブランドの「ミナ ペルホネン」は業界人が特別な敬意を示すブランドだ。吉田カバン(「吉」の字は正しくは上が「土」)の「POTR」ブランドも熱烈なファンが多い。 「どのコラボもほぼ日の担当者が『ぜひ一緒に』と発案。ダイレクトに申し入れて実現にこぎ着けた」(星野氏)。傑作ウオッチは「タイムピース」と呼ばれるが、担当者の熱量が乗り移った手帳は「デイリーピース」と呼べそうな仕上がりだ。 英語版は2013年版に登場した。本物を知る人が通うセレクトショップ「ARTS&SCIENCE」のオーナーでクリエイティブディレクターのソニア・パーク氏とのコラボをきっかけに、「英語版を作りたい」という逆提案を受けて始まった。 自らと対話し、文字に書き出すことによって、気持ちを整理したり、悩みと向き合ったりする「ジャーナリング」は「書く瞑想(瞑想(めいそう=マインドフルネス)」とも呼ばれる。米国でのジャーナリング人気は「しっかり書き込める手帳のニーズを海外で広げた」(小泉氏)。SNS上でのコミュニティーもファン層を厚くしたようだ。自ら知識を養う「コモンプレイス(備忘録)」のような使い方にも、ほぼ日手帳は向いている。