ほぼ日手帳、売上高の過半は海外 書き込みたくなる工夫 「ほぼ日手帳」(下)
独創導いた風通しのよい社風
「書き込みたくなる手帳を作る」――。後知恵でいえば、割とシンプルなアイデアだろう。だが、既存の手帳業界からは生まれなかった発想だ。「手帳の再発明」とも呼べそうな商品設計がなぜ「ほぼ素人」だったチームに可能だったのか。 業界知識に疎いアマチュアだったことが先入観を排す上でプラスに働いたのは確かだろうが、それだけでもなさそうだ。小泉氏は「風通しのよい、ほぼ日の社風や企業文化のようなものがよかったのかも」と振り返る。 ほぼ日社員の名刺には所属部署や肩書が見当たらない。副社長の小泉氏も、現チームリーダーの星野氏も名刺に刷られているのは名前だけだ。所属や上下の意識にとらわれないフラットな社風を端的に物語る。ほぼ日では会社を船に見立てて、働き手のことを「乗組員」と呼ぶことでも有名だ。 翌年の手帳はチームメンバーが1年以上前からプランを練る。その際、外部コンサルタントやマーケットリサーチには頼らない。「最初は隣の席の仲間にアイデアを聞いてもらうところから始める」(星野氏)からだ。 相手が「面白い」「欲しいかも」と応じれば、さらに別の仲間にも相談しながら案を練っていく。時に愛あるダメ出しも辞さず、本音で意見を交わせる社風ならではの「お隣コンサル」だ。 ほぼ日の社是は「夢に手足を。」で、行動指針には「やさしく、つよく、おもしろく。」を掲げている。創業者の糸井重里社長が掲げた言葉は社内に浸透し、前例や常識に縮こまらない自律的な仕事ぶりにつながっている。伸びやかな気風は好業績につながり、企業体としてのほぼ日は優秀な企業に贈られる「第12回ポーター賞」を2012年に受賞した。
ロフトの取り扱いで認知度向上
ほぼ日手帳の認知度がぐっと上がったのは、生活雑貨店「ロフト」で取り扱いが始まった2004年からだ。ロフトでの販売が始まったきっかけは取扱商品の公募制度「オープンバイイング」。当時のチームが自主的に参加した。 「『(東京・渋谷の)ロフトの手帳売り場に置いてもらいたい』という気持ちから応募した」(小泉氏)。商社や卸業者を通さないダイレクトな「持ち込み営業」にも、ほぼ日らしい愚直さがうかがえる。 手帳を見た担当部長は「これは手帳のルイ・ヴィトンになる」と見込んで買い付けを決めたという。慧眼(けいがん)だった。本格的な取り扱いを始めて以降、ロフトでは、ほぼ日手帳が手帳の販売数トップを守り続けている。新商品の売り出し日に行列ができる景色は9月1日の風物詩となりつつある。 これほど売れる商品なのだから、販路を広げたくなるのが普通だが、ほぼ日はここでもマイペースだ。2011年版に週間タイプ「ほぼ日手帳weeks」が登場するまでは、公式オンラインショップ「ほぼ日ストア」を除けば「ロフト」に販路を絞っていた。義理堅いというだけではなく、ユーザーとの接点となる販路にも「ここで売ってほしい」という理想を貫くのが、ほぼ日の流儀なのだろう。