【菊花賞】ダノンデサイル横山典弘を直撃!ダービーVからの直行2冠へ「まだまだ成長している最中」
[GⅠ菊花賞=2024年10月20日(日曜)3歳、京都競馬場・芝外3000メートル] 天高く馬肥ゆる秋。今週末のGⅠは、牡馬クラシックの最終章・菊花賞(20日=芝外3000メートル)が、京都競馬場で行われる。なかでも注目を集めているのは、ダービー馬のダノンデサイル。過去にダービーからぶっつけの参戦で菊花賞を勝った前例はないが、同馬の近況はどうなのか。安田厩舎番の赤城真理子記者が、主戦の横山典弘騎手(56)に聞いた。
前例のない挑戦
人間の気負いや緊張、勝ちたいという思い。それは勝負事にとって、ある程度までなら大事なことに思えます。ですが、こと競馬においては、それが馬の能力を阻害することになってしまうそう。 「人間の心のうちは、馬には全て伝わってしまう。それがアイツらにとっての重荷になる。だからな、たとえダービーだって…ダービーを勝ちたい、どうしても勝ちたい、なんて思って乗ったらダメなんだ。ただの東京の2400メートルのレース。いつもとやることは一緒。ジョッキーがそう思って乗らなきゃ、勝てるもんも勝てねえよ」 横山典弘騎手は言います。とはいえ、この言葉を“ダービーの勝ち方”なんて軽薄な表現にしてしまったとしたら、絶対に喜ばれないでしょう。そんな単純なお話をされているわけではない。横山典騎手が、いつだって魂を注ぎ込んでこられた「常に馬に寄り添え」を、言い換えてくださっただけに過ぎないのだと思います。 「デサイルだってな、皐月賞のときゲート裏で俺が違和感を感じて取り消したことを、その後に“ダービーを勝てたから”やたらともてはやされて美談にされてしまっている節があるだろ。でも、俺らジョッキーにとって、当たり前のことをしただけなんだよ。もしあれが未勝利戦だったとしても、当然、同じことをしていただろう」 横山典騎手からすれば、その後のことが一番大事だったといいます。レースに向かう馬は、普段、馬房にいる時の馬とはまるで違う。筋肉が張り、その上に血管が浮き「ゲートの中なんか目をむいている」のだそう。一度そういう状態になった馬が、直前で競馬を走らないことが決まった後、一体どうなるのか。 「デサイル自身は走る気満々だったから、引き揚げていく時も“えっ? 走らないの? なんで??”と戸惑っている感じだった。当然だな。レース(皐月賞)に向けて仕上げられ、さあ走るぞといきり立った馬が、ガス抜きをすることなくトレセンに帰ることになった。翔伍(安田調教師)はそういう馬の内面のことも心底分かっている人間だから、デサイルをフラットな状態に戻してやるまで(担当の)原口さんとすごく気を使い、苦労したと思う」 牧場とも連携し、今回こそ、何とか無事にと調整してきた先にあったダービー。1週前の調教に乗った際、横山典騎手は「いいころと比べるともう少し」だと感じたそうです。それを安田調教師に正直に伝えると「分かっています。でも、典さん、信じてください。1週間で、必ず上げてみせますから」と、横山典騎手の目を見て、はっきりとおっしゃったそう。 「翔伍がそう言うんだ。あとは信じるだけだった」 迎えた当日。パドックでデサイルにまたがり、返し馬の走りを感じて、横山典騎手は「大丈夫だ」と思ったそう。後は冒頭通り、東京の2400メートルのレースだと思って乗るだけでした。 「やることは全てやった。そういう努力をして、初めて人間はフッと力を抜くことができる。それでやっと、本番でも力を発揮できるんじゃないか」 そのダービーは、横山典騎手にとって「ダノンデサイルの能力の絶対値の違い」を感じたレースでもあったといいます。この馬は、持っている能力が他とは違う。いつかきっと、その全てを出して走ることができるように――。ダノンデサイルが競走馬として、いい馬生を歩めるように。