「今こういう感じ」を、今、描きたかった――オカヤイヅミ×近藤聡乃 新刊刊行記念対談 前編
2021年にデビュー10周年を迎えるオカヤイヅミさん。今月に『いいとしを』(KADOKAWA)『白木蓮はきれいに散らない』(小学館)の2冊が同日刊行されることを記念して、同じく多摩美術大学の同級生で、昨年完結した『A子さんの恋人』が話題を博した近藤聡乃さんとの(画面越しの)初対面&初対談が実現しました。 >>『創作は「体質」。やめるという選択肢がない』――オカヤイヅミ×近藤聡乃 新刊刊行記念対談 後編 ■一番やりたいことを避ける癖がある(オカヤ) 憧れているほうへ素直に行ってしまう(近藤) ――お2人は、同じ年に多摩美術大学のグラフィックデザイン学科をご卒業されていますが、ゆっくりお話しになるのは今日が初めてだそうですね。 オカヤ:はい。確認してみたら、15年前に1度ご挨拶だけしたことがあって。近藤さんの個展に共通の友だちと一緒に伺いました。 近藤:「てんとう虫」のアニメーション(「てんとう虫のおとむらい」2006年、ミヅマアートギャラリー、東京)の個展ですね。あの時にお会いしていましたか。卒業年度が同じ2003年なんですよね。そういえば、昨日ちょうど○○くんから連絡をもらったのですが……。 オカヤ:あ、私、ゼミで一緒だったんですよ。 (しばし、たくさんの共通の知人の話題で盛り上がる) ――こんなに共通のお知り合いがたくさんいるのに、お2人は今日までお話しする機会がなかったというのがおもしろいですね。 オカヤ:だから今日は本当によかったなと。近藤さんの特集号の「ユリイカ」とか「Hanako」で、同世代として近藤さんに憧れている、みたいなことばっかり書いてきたので……すごく恥ずかしくて。 近藤:いえいえ、とてもうれしかったです! 同年代の、同業の方に作品を見られるのが一番緊張するので。 オカヤ:うっすらつながりもあるので、挨拶しないとキモくなっちゃう! と思っていました。 近藤:全然キモくないです(笑)。 ――これまでは作品を通してお互いを見てきた、という感じだったのでしょうか。 オカヤ: あ、でも近藤さんは、学生時代からスターだったので。 近藤:そうだったのですか(笑)。 ――近藤さんは在学中の2000年に漫画家デビューされていますね。 近藤:そうですね。 オカヤ:その後のアニメーション(「電車かもしれない」)でみんなが知っている、という感じだったと思います。 ――オカヤさんはその頃どんなふうに過ごしていましたか。 オカヤ:私は本当にくすぶっていて。大学にも行かず、家で寝ていて……何もしていなかったです(笑)。 近藤:ご実家から通っていたんですか? オカヤ:実家です。大学に行く坂をもう上りたくない、と思っていました。 近藤:美大って「無理……」みたいな気持ちになっちゃうことがありますよね。 オカヤ:広告映像のコースだったんですが、みんなに「向いていないと思ってた」って言われて。卒業してから6、7年ウェブ・デザイナーをやっていたんですけど、それもみんなに「向いてないと思った」と……。 近藤:みんな、早く言ってくれればいいのに(笑)。 オカヤ:(笑) 今は「作家になれてよかったね」と言われます。30歳を超えて、ようやく楽になれた感じでした。 近藤:そうだったんですか。3年生の、専門コースに分かれる時の選択を間違ってしまったんですね、たぶん(笑)。 オカヤ:そうそう、そうなんです。 近藤:大学生の時は、漫画には興味がなかったんですか? オカヤ:自分に漫画を描くなんてことができるとは思っていなかった、というか。そんな畏れ多いことしちゃいけないという感じがあって。 近藤:えっ そうなんですか? オカヤ:一番やりたいことを避ける癖があるんです。漫画は読むのが好き過ぎて、完全に読者でした。 近藤:私はアックスの新人賞に応募して大学2年生の時にデビューしているんですけど、同じクラスの人は「アックス」も「ガロ」も知らなくて。「多摩美生は誰も漫画を読んでいない!」と思っていたんです。 オカヤ:ほんとですか!? そんなことないですよ。 近藤:1、2年生の頃は特に、漫画の話ができる友達があまりいなくて結構つらかったんですけど……オカヤさんは大学時代から「ガロ」をご存知でしたか? オカヤ:知っていました。「ガロ」は……みんな知っているんじゃないのかな? みんな何に興味があったんですかね。 近藤:グラフィックデザインでしょうね、「タマグラ」ですから(笑)。「誰もガロを知らぬ……!」とショックでした。オカヤさんが3年生でちょっとつまずいたように、私は大学に入ってすぐつまずきました(笑)。思い描く美大像とはとても違っていて。 オカヤ:ファイン系(絵画や彫刻など)の学科に行けばよかったのかもしれないですね。 近藤:そうですね。たぶん私が想像していたのはファイン系だったんですよ。でもアニメーションが必修だったことを思うと、グラフィックデザイン学科に入ってラッキーだったんですけど。 オカヤ:私、「ガロ」も、たぶん近藤さんのデビュー作が掲載された「アックス」も買っていましたよ。 近藤:えー! その時に言ってくださればいいのに! オカヤ:(笑) 当時、いろんなサブカル雑誌があって、人生で一番漫画を読んでいたと思います。近藤さんの漫画には「ガロ」や「アックス」の影響が出ているというか、最初の頃は特に絵柄を合わせにいっている感じはしますよね。 近藤:そうですね。もう、すごく「ガロ」ですね。オカヤさんは「一番やりたい事は避ける」のだとすると、好きな雑誌の漫画賞に応募したりもしなかったんですか? オカヤ:一番やりたいところに行くのが恥ずかしいというか、行っても絶対負ける、と思ってしまう。なので、当時読んでいた「コミックビーム」に『ものするひと』が載った時は、信じられない気持ちでした。 近藤:そう考えると私は、憧れている方向に素直に行ってしまうほうかもしれません。 オカヤ:私は中年になって自意識が減ってきて、ようやく漫画が描けました。 近藤:わかります。私もどんどん恥ずかしいことが減ってきました。「おばさん」になって良かったことの一つです(笑)。