働くと本が読めない我が暮らし~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
■“自分”を大切にする、今の「読書好き」 40年前の「読書好き」有職者は、“仕事のために本を読む”感じでしたが、今の「読書好き」有職者は、“自分の楽しみのために本を読む”という印象。 では、今の「読書好き」有職者には、そうした“自分のため”や“自分らしさ”といった志向が強いのでしょうか。 それを見極めるため、さまざまな意見・行動についてあてはまるものをいくつでも選ぶ質問について、「その他」の有職者と比べてみました。 次の棒グラフに示したのは、有職者の「読書好き」と「その他」で選択率の差が大きかったものの上位5つの結果です。 これを見ると「読書好き」は「その他」よりも、「気ままな一人旅」「自分の趣味や好みにあった生活」「香りや匂いに敏感」「個人の幸福が社会の改善に先行」などを選ぶ割合が高くなっています。 これは、“自分のため”や“自分らしさ”の重視をうかがわせる読書傾向にも通じる結果といえそうです。 しかし自分優先の利己主義者ではなく、地球環境保護への目配りから、等身大で社会に関わろうとする姿勢といったものも感じられます。 ■両立しがたい労働と文化の間で 冒頭に紹介した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』によると、著者の三宅氏にとって読書は、他の人にとっての勉強や趣味、家族との時間などのように、人それぞれ異なる「人生に必要不可欠な『文化』」だそうです。 「生活できるお金は稼ぎたいし、文化的な生活を送りたい」のに、「今を生きる多くの人が、労働と文化の両立に困難を抱えて」いる状況。「なんで現代はこんなに労働と読書が両立しづらくなっているのか?」という、著者にとっても切実な問いの答えを求めて、同書では明治以降の労働と読書の関係を追いかけていきます。 ところで、同書では、読書が「自分の人生を豊かにしたり楽しくしたりしようとする自己啓発の感覚とも強く結びついて」いると指摘しています。 今回の分析で、40年前の「読書好き」有職者は、仕事のために本を読む様子がうかがえました。裏を返して、読書によって仕事つまり労働の成果を上げることで、自分の人生を豊かにしようとしていたと考えれば、その頃は労働と読書がかろうじて両立していたのかも知れません。 一方、昨今の「読書好き」有職者による、自分の楽しみのための読書は仕事(労働)とは両立しにくいかも知れません。 どうやれば労働と文化が両立する社会が作れるか。同書を読んで、その答えを考えてみたくなってきました。 そこで喫緊の課題は、その本を読む時間をどう捻出するかですが……。