GQ JAPAN編集長の鈴木正文が選ぶ、2020年新作時計 ベスト5
鈴木正文
今ほど時計とファッションが近くなった時代はない ひと昔前、時計に求められる要素はパフォーマンスでした。でも、バンフォードがカルチャーに結びつけ、(ジャン-クロード・)ビバーさんがそれに目を付けた。今ほどファッションと時計が近くなった時代はないし、いっそうストリートカルチャーと結びついていくでしょう。そういう中で、フォーカルポイントになるのは、「稀少価値」かと思います。今年のトレンドは、ヴィンテージ志向がはっきりしてきたこと。今の人たちは、古い時計に注目するようになりましたが、ヴィンテージは安くはありませんよね。そこで復刻版がこのトレンドに棹をさすようになっています。結果、どれもデイトナやサブマリーナーに似てきたような気がします。楽しいような、ちょっと残念なような気分です。
この時代、自らの歴史的アセットがあるメーカーは強いと思います。そんな中でカルティエが発表した新しいパシャはなににも似ていない傑作だと思いました。ブルガリのアルミニウムも、巧妙なデザインですね。それとブレゲのクラシック。個人的にはそのムーンフェイズに注目しています。復刻でいえば、ロンジンのタキシードも良いし、ゼニスの“シャドウ”は、昔のデザインを今っぽく表現しています。服装で自分を表現するのは大変ですけれど、スニーカーや時計なら容易です。先日、藤原ヒロシさんと話したのですけれど、彼ももはや時計にドレスコードはないと話していました。同感です。時計ってコミュニケーションツールですし、それを着けるにあたって、もはやドレスコードはまったく関係なくなっていると思いますね。(談)
〈カルティエ〉 パシャ ドゥ カルティエ
1985年のファーストモデルを思わせるデザインに、インターチェンジャブルストラップや、高い耐磁性の自動巻きを加えたモデル。「パシャは魅力的なモデルですが、若い世代にはまだ知られていませんね」。
〈ゼニス〉 クロノマスターリバイバル “シャドウ”
1970年代に作られた手巻きのプロトタイプに範を取ったモデル。おそらく当時のケースはSS+PVDのはずだが、本作にはブラスト処理をしたTiを採用。「昔のケースデザインですが、うまく今っぽさを加えたモデルです」。