映画「鬼ガール!!」原作者・中村航さんインタビュー「いま輝けることを見つけることが、将来の輝きにつながっていく」
井頭愛海主演で現在公開中の映画「鬼ガール!!」。原作は、ベストセラー「100回泣くこと」や映画化された「デビクロくんの恋と魔法」などの著者・中村航さんの児童小説「鬼ガール!! ツノは出るけど女優めざしますっ!」(角川つばさ文庫)だ。 【写真を見る】板垣瑞生、桜田ひよりら注目の若手キャストが集結! 中村さんが今“鬼”をテーマに児童小説を手掛けた理由は? 鬼の末裔・ももかというキャラクターに込められた思いとは? 中村さんに作品の背景を聞いた。 ■ 「ももかに“鬼”というコンプレックスを乗り越えてもらいたかった」 ――「鬼ガール!!」は、鬼と人間のハーフであることを隠しながら生活する女子高生・鬼瓦ももかが、部活動に打ち込みながら成長していく姿を描いた物語です。「鬼」を主人公にするというアイデアはどうやって出てきたんですか? 中村「具体的に考え始めたのは、2009年に『オニロック』という絵本を作ったあとです。この絵本の主人公も、鬼の男の子なんですが、「鬼」という題材と、絵本の相性がとてもよくて。次に作るとしたら、児童小説ならその世界観をうまく表現できるかもしれないと思っていました」 ――ももかは鬼ですが、ごく普通の女子高生として暮らしています。 中村「ももかは、自分にツノがあったり鬼であることに対して、とてもコンプレックスを抱いている女の子です。鬼は昔から、人間とは違う造形で、違う場所に棲んで……と、差別意識を含んだ形で怖れられてきた存在だと思うんです。それを現代風のコンプレックスや自信のなさに変えて、主人公にそれを乗り越えてもらいたかった。だから、僕たちが普段持っているさまざまなコンプレックスや自信のなさを、鬼という形でももかに背負わせて、乗り越えてもらいたかった。それに、そもそも鬼に興味がない人なんていないでしょ? 僕も子どもの頃から興味がありましたし。児童文学の『泣いた赤鬼』や、小学校の合宿で歌わされた『鬼のパンツ』なんかで鬼を認識し始めたのかなぁ。でも、『うる星やつら』のラムちゃんとかね、あんまり怖いイメージはなかった」 ――鬼を登場させるにあたり、どんなことを意識されましたか? 中村「とにかくキュートに描くように心がけました。犬や猿が苦手という、桃太郎を連想させるようなことを入れてみたり。あとは、登場人物の友情・恋愛・家族愛など、さまざまな関係や思いを丁寧に追うことで、生き生きと描いたつもりです」 ■ 河内長野市を訪れたことで、すべてが始まった ――主人公たちは、映画作りに没頭していきますが、なぜ「映画」をテーマに? 中村「小説の舞台である大阪府河内長野市を訪問したのが大きいですね。そこで映画祭に参加して、映画祭で地域を盛り上げようと頑張っていらっしゃる方々にもお会いし、『映画』を扱うのがいいかもしれない、と思ったんです」 ――河内長野市の印象は? 中村「ちょっと大胆なこと言いますけど、僕は今、邪馬台国って河内長野市にあったんじゃないかって思っているんです(笑)。山間の集落や、そこを抜けた先にある桜が綺麗な場所、山の上の小学校、人々が集う立派なお寺や史跡なんかを見せてもらったんですけど、いかにも鬼が棲んでいそうなんですよ。というより、こういうところに鬼の子が棲んでいたら楽しいだろうなと思って。卑弥呼は『鬼道』という占いで国を統治しており、卑弥呼自身が鬼だったともいわれています。そして、鬼が棲んでいたという伝説が残る、このエリアの旧『鬼住村』は、いま『神ガ丘』という地名になっているわけです。この場所を知ったことが、僕が邪馬台国説を信じる理由であり、『鬼ガール‼︎』の物語が動き始めるきっかけでした」 ――その後、どういう流れで映画化に? 中村「そのころ、タイミングよく出版社の方に児童小説を書かないかという話をもらったんです。そこでこの構想を伝え、『鬼ガール!!』を書くことになりました。それと同時に映画化の話も、とんとん拍子で進んでいきました」 ■ 「結局は、今好きなものを突き詰めればいい」 ――作中、ももかが神宮寺岬センパイに「センパイは“創る”ことより、体や声を使った“表現”のほうが好きなんじゃないか」ということを言います。 中村「みんな、どちらもできるようになりたいんだけど、意外とどちらかしかできないもの。僕も昔、バンドをやっていたんですけど、詞や曲を作るのはすごく楽しいのに、ステージ上で表現するのは得意じゃないから、楽しくなかった。最初はドラムをやっていて、そのときは楽しくやってただけなんですが、その後ボーカルをやるようになって、そのジレンマを強く感じました。でも、ステージ上での演奏が一番好きな人もいる。その違いはなんだろうって考えたら、結局は「好きなものが違う」ってことなんですよね。だから、憧れはあったとしても、楽しくないものを無理に追うんではなく、好きなほうを突き詰めればいいんだと思います」 ――ももかは最初、演じることに興味があったわけではないですが、周りの人たちとの出会いの中で、だんだんとのめり込んでいきました。 中村「自分の適性を頭のなかでずっと考えることより、目の前のものや身近なものに興味を持って飛び込んでいくことのほうが大切だと思います。いま輝けることを見つけることが、将来の輝きにつながっていくんですよね。そんなに焦る必要はないんじゃないかな。実際、僕が小説家になろうって決めたのなんて、27歳のときですし(笑)。それより、自分がいまやっていて、一番嬉しい、楽しいってものを見つけてほしい」 ――この作品を通じて、ほかにどんなことを伝えたいですか? 中村「チームで作ることの楽しさや素晴らしさ、プライドや責任感、やり遂げたときの喜びなどを『映画』という題材を通して描きたかった。これは、この本を読む小学生・中学生へのメッセージであり、エールです。そして、河内長野市で映画を作る方々へのエールでもあり、自分自身へ向けたエールでもあります。新型コロナウイルスの感染拡大などで大変な時代ですけど、またみんなで集まって、映画を作れるといいですね」 ――最後に、これから『鬼ガール!!』を読まれる方へ、ひとことお願いします。 中村「今作は、児童小説ということで、小学生・中学生が、誰でも読みやすいように作ったつもりです。それと同時に、ぜひ大人の方にも読んでいただきたいですね。この作品には、親子の愛情や夫婦愛、兄弟の関係性や恋愛感情、ライバル関係……など、さまざまな要素を本当にたくさん盛り込みました。今作がみなさんに支持されれば、まだ描ききれていない部分を、第2、第3巻で描いていければと思っていますので、まずは第一弾の小説と映画を、じっくり楽しんでいただければ嬉しいです」 「ザテレビジョンYouTubeチャンネル」では、映画「鬼ガール!!」の冒頭シーン5分間の映像を独占公開中。“鬼”のモチフを通じて描かれる成長物語が、コンプレックスを乗り越えて今を好きになる方法を教えてくれている。 (ザテレビジョン)