【絶望から希望へ:神戸刑務所編】唖然ボー然!目の前で他人の甘シャリを堂々とパクリ。証拠隠滅!《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
人は絶望からどう立ち直ることができるのか。 人は悪の道からどのように社会と折り合いをつけることができるのか。 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月! じんさん、今度は神戸刑務所に3年間お世話になります。西の塀の中はお笑い劇場なみの面白さ。どん底でもどこか明るいそんな生活に気持ちが明るくなってきました。希望は、そんな「小さな面白さ」から育っていくような感じかもしれません。 この記事の写真はこちら ■塀の中ではボタンが外れているだけで罪を犯したのと同じ 神戸刑務所には「減点制度」というものがあって、舎房での生活態度や工場での作業態度が悪いと減点されてしまう。そのうえ点数がある基準に達しないと、いくら期間が来ても進級しなかった。 だから中には、四級のまま、3年近くも進級を果たすことができないで、「あいつ、もう3年も四級やっているんや」というようなかわいそうな懲役もいた。 洋服のボタン一つ外れていても、社会でいう交通違反の減点と同じように減点されてしまう。極端な話、塀の中ではそのボタンが外れているだけで罪を犯したのと同じなのだ。そしてその引かれた点数によって、進級を果たせなくなるのだった。 ボクは、愉しみの一つとして懲役をいじめてストレスを発散させているような看守たちの、サデスティックな目からなかなか逃れることができないでいた。いつも月の終わり頃になると撃ち落とされて点数が足らなくなり、三級へ進級を果たすことができない。だが、8カ月ほどすると、ようやく三級に進級し、めでたく三級房へ移ることができた。 この三級房には、大阪の西成区で〝汚れ(ホームレス)〟として気ままに漂流生活を楽しみ、人生を謳歌している浜さんという、無銭飲食で入ってきている70歳になる常連のオッサンや、名古屋のあるお城の一四代目を継承する30歳の水野という、懲役仲間から「チェリーボーイ」と呼ばれている風変わりな奴や、ピッキングでの窃盗や強盗などで数億円を稼いで、上海に7000万の家を建てたというメチャメチャ大阪弁の上手い20代の中国人のリン、その他、ドロボー、薬中患者といった、刑務所を維持していくための一端を担う常連客たちが揃っていた。 ◼︎他人の甘シャリをパクって胃の中に! あるとき、この部屋でいつものように膳板を囲んで、夕飯に出たパンとアカバト(甘シャリ)にありついていると、一本も歯がないくせに、いつも食べ終わるのが一番の浜さんが早々に飯を平らげてしまった。そして、さも食い足らないといった風情で、目の前で食べているチェリーボーイのアカバトをジッと見つめていた。 それは、チェリーボーイが、あとでゆっくり食べようと思って最後まで取っておいたアカバトだった。しかし、浜さんはそのアカバトの入った皿にサッと手を伸ばすと、両手で掴んで曳(ひ)き寄せ、チェリーボーイが驚く間もなく、あっという間に手で口の中へ掻き込んで食ってしまったのである。 「うぇー、食った!」 部屋の懲役たちもこの仰天事件に喚声を上げたが、当の浜さんは、口の周りをアカバトで汚したままそっぽをむいてシカトを決めこんでいる。 チェリーボーイはというと、空になった皿を見詰めて半ベソをかいていたが、もうあとの祭りだ。 一部始終を見ていて唖然としたボクは、驚きとともに、神戸刑務所の懲役たちの底しれぬすごさを見せつけられたという思いになっていた。 (『ヤクザとキリスト~塀の中はワンダーランド~つづく)
文:さかはら じん
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