「坊主頭にでもしないとお前は変わらない」労働問題対応に奔走する弁護士が明かした“令和ブラック企業”の“とんでもないハラスメント”
Aさんは、掃除機メーカーの販売営業マン。大学の新卒で入社し、まだ1年目の若手だった。勤務先は支店長をトップとして上下関係に厳しく、Aさんは支店長代理から「お前は一番下っ端なんだから、先輩より遅く出社してくるのはおかしいだろ」と指示されて、朝一番に出社するようにしていた。早朝の出社から夜11時頃まで外部営業や会社での作業をし、帰宅後にも資料や日報等の作成を行う日々だった。もちろん残業代はないが、誰も文句は言わない。 あれ? 労働者の労働時間って、雇用契約や労働基準法(32条等)で制限されているはずだが……。ただし、新卒のAさんは、「そんなものか」と思うだけで、それほど疑問には思っていなかった。
営業成績が伸びないからと丸刈りに
新人ががんばってもすぐに売上が伸びるわけもなく、Aさんは、売上を伸ばすためと必然的に長時間労働に。ところが、支店長代理は残業中のAさんを見かけると飲みに行こうと誘う日々。酒好きならいざ知らず、実はAさん、体質的に酒が飲めない。 そこで、誘いを断ろうとすると、支店長代理は「先輩からの誘いに付き合うのは社会の常識」と言って無理やり連れだす始末。Aさんは一緒に飲むわけでもなく、他の人と盛り上がる支店長代理を自動車で送迎する役割だった。これは、ハラスメントの香りが……。 ある日、極めつきの出来事が起こる。Aさんがいつものとおり社内で作業をしていたところ、上司から驚くべき通告を受ける。社内の役職者会議で「Aさんを坊主頭にすることが決まった」というのだ。坊主頭にする業務命令だという。え? そんな業務命令は、普通に考えたらダメだってわかるでしょ? だが、普通じゃないのがブラック企業。 驚いたAさんは支店長代理に本当なのか聞いたところ、「坊主頭にでもしないとお前は変わらない」との答え。しかも、支店長代理は「どうせ坊主にするんだから俺が切ってやる」と言って、Aさんの髪をその場にあった事務用ハサミでジャキジャキと適当に切りはじめたのだった。Aさんは茫然自失。 しかもその翌日、散髪に行く暇もなく出社したAさんに対し、支店長代理は、なぜきちんと坊主頭にしてこないんだ! と叱責する始末。……ハラスメント、ココに極まれり。 Aさんは、ついに会社を辞める決意をして、労働審判を申し立てることに。労働審判のなかで支店長代理はAさんの髪を切ったことは認めつつ、Aさんから頼まれて切ったんだという主張をしてきたものの、そんな主張が通るはずもなく、事件としては無事に解決した。 一般的に、裁判沙汰(労働審判も含む)になった際に一番重要となるのは、「証拠」があるかないかという点だ。証拠がないという理由だけでブラック企業を栄えさせる結果にしてはいけない! というのが、我々ブラ弁(ブラック企業被害対策弁護団の略称)の最大の使命だ。 テレビドラマであれば、弁護士がどこからか華麗に証拠を入手したり、謎の協力者が内部情報をもたらしてくれたりすることもあるだろうが、現実は、泥臭くはいつくばって、依頼者と一緒になって証拠を探すしかない。 Aさんがいた会社は、離職者が多く、他の離職者が事実の証明に協力してくれたことも解決に大いに役立った。労働者同士の横のつながりというのは、裁判沙汰になったときにも、とても心強いものである。
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