「和田さんの火を絶やさないことが僕らの仕事」――糸井重里さんが語る和田誠さんとほぼ日手帳2021
和田誠さんの「 週刊文春」表紙絵を使用した「ほぼ日手帳2021 」が発売になりました。ほぼ日手帳のスタッフが「和田さんの作品で手帳を作りたい」と糸井重里さんに提案した際、糸井さんが「和田さんといえば『週刊文春』の表紙が代表的な作品だから、文春の表紙がいいよ」と言ったことがきっかけで、今回の手帳の企画がスタートしたそうです。 【写真】この記事の写真を見る(9枚) 「和田さんの追悼というより、何かをつくることで作品が広がるように」という気持ちを込めて手帳をつくったという糸井さんに、和田さんへの思いを伺いました。 ◆◆◆ 少し前に「図書館で会える」という和田さんのコピーを思いついたんです。親の立場の人が子供から「図書館に和田さんがいた」と教えられるケースが多いらしいんですよね。和田さんの作品は、いろんな形で図書館のいろんな場所にいるんです。絵本にもいるし、学術書の中にもいるし、映画や音楽の本にもいる。そんな人、ほかにいないですよね。 和田さんはとにかく目立ちたくない人で、ご本人が前に出ないようにしてたと思うんです。お葬式をやってほしくないということもわかっていたので、「和田さんのことを好きな人が普段着で集まって思い出を語り合える場所をつくろう」と、僕も発起人のひとりとなって今年の3月の頭に和田さんを偲ぶ会を計画していました。結局、コロナで開催できなくなってしまったんですが、あれは和田さんが中止にしたんじゃないかと(笑)。 淡々と和田さんの思い出を語るということをみんながしたいんじゃないかなあ。本当にいい人でしたからね。 和田さんが亡くなったときに、マスコミからコメントを求められたりもしましたが、一切出さなかった。和田さんと「お互いに追悼コメントはやめよう」とはっきり約束したわけではないんですけど、明らかに「嫌だね、そういうのは」という人でしたので。
和田さんの火を絶やさない
和田さんは持ち上げられたりするのは嫌なんだけど、自分の作品を絶やしたくないという気持ちはあったと思います。和田さん自身、自分の作品もコレクションもすごく丁寧にとっておいているわけです。それは「作品がなくなってしまうのは嫌だ」という気持ちからだと思うので、残っている人間が守ろうね、と。 亡くなったあとも和田さんにはいろんな依頼がきているそうで、次男の率さんが「和田さんならどう思うか」を一生懸命考えて、それに合わせた結論を出しているそうです。 たとえば亡くなってから和田さんの本を再版するときに、バーコードの問題が出てくる。和田さんは「バーコードをカバーに印刷するのは嫌だ」と言って、いろんな工夫をしたり出版社と喧嘩をしたりしてきたわけです。そんな人の本が再版されるときに、「もう亡くなっているからバーコードを付けましょう」となるのはどうなのか? 和田さんなら「死んでるからってダメだよ、付けちゃ!」って言うだろうということで、率さんは断るんだそうです。和田さんが乗り移ったかのようにして判断していくのは、どれだけ簡単じゃないことかと思います。 でもその「和田ルール」のままだと火が絶えるということもあるので、それをどうするかをこれから考えていかなくちゃいけない。「和田さんの火を絶やさないようにしていくことが、僕らの仕事だね」ってことを率さんとも話しています。 今回のほぼ日手帳も、「和田さんの火を絶やさないための仕事」だと思っています。でも、和田さんの遺志を継ぐというか、和田さんを大切に思って和田さんのお手伝いをするというのは、なかなか簡単なことじゃないぞと思います。クリエイティブな能力が必要になる仕事ですから。 一番たいへんなのは率さんですけど、僕も結構ちょうどいい仕事ができているかもねと思っているんです。今のところは和田さんが僕に合格点をくれている気がします。「糸井がやってるの、ちょうどいいよ」って。 「週刊文春」もまだ和田さんの表紙をやめないじゃないですか。ずっと和田さんの絵のアンコール企画を続けている。あれも大変なことですよね。和田さんに怒られないギリギリのところで和田さんの火を絶やさないように何かしようと、みんながしている……という感じがします。