ドラマ『地面師たち』を見た積水ハウス元幹部が激白「あのとき社内で起こったこと」
「死人がゴロゴロ出るようなヤマ」
「もっと大きなヤマを狙いませんか? そうですね……死人がゴロゴロ出るようなヤマです」 【写真】事件の舞台となった品川区西五反田の旅館「海喜館」 黒幕のハリソン山中(豊川悦司)はこう語りながら、共犯者たちに100億円の不動産詐欺を持ちかける。 7月25日に配信がスタートしたネットフリックスのドラマ『地面師たち』が話題を呼んでいる。配信開始から国内の人気番組ランキングで首位を独走し、世界ランキングでもトップ3に食い込んだ。 ドラマのモデルとなったのは、2017年に実際に起こった「積水ハウス地面師詐欺事件」。住宅メーカー大手の積水ハウスが、品川区西五反田にある旅館「海喜館(うみきかん)」の土地約600坪の購入代金約55億円をだまし取られた、前代未聞の詐欺事件だ。 地面師グループはニセ地主役の女と偽造した彼女の身分証を用意し、正規の所有者による取引に見せかけ積水ハウスを欺いた。 劇中では住宅メーカー「石洋ハウス」の開発事業部長・青柳隆史(山本耕史)が、地面師たちに手玉に取られる。当時の社内の状況を知る積水ハウス元執行役員のA氏は、ドラマを見た感想をこう語る。 「自分がダマされているとも知らずに、都心の一等地を手に入れようとして地面師の策略にハマっていくデベロッパーの青柳の姿が、とてもリアルに描かれていましたね。 おそらく彼のモデルとなったのは、積水ハウス側の責任者だったマンション事業本部長・常務執行役員のM氏(以下、肩書は当時のもの)でしょう。しかし実際のところ、あれは単なる詐欺事件ではありませんでした。積水ハウス側にも問題があったのです」 世間を震撼させたあの事件の裏側で、積水ハウス社内では何が起こっていたのか。元幹部たちの証言をもとに当時の状況を再構成していこう。
異例尽くしの「社長案件」
事件が幕を開けたのは2017年3月、「海喜館の持ち主が土地を売りたがっている」という情報が積水ハウスにもたらされた。都心の一等地にあった海喜館は2015年に閉業しており、多くの不動産業者がマンションの建設用地として目をつけていたものの、地主が「絶対に手放さない」ことで有名だったという。 大きな売り上げにつながるこの取引で、競合他社に先を越されてはいけない――あせったM氏は異例のスピードで社内決裁を進めていくが、そこには積水ハウス内部の「力学」も働いていた。 「当時の阿部俊則社長にとって、積水ハウスを2兆円企業に押し上げた和田勇会長は『目の上のたんこぶ』。そんな会長の影響力がおよびにくいマンション事業は、重要な権力基盤だったわけです。 だからこそ阿部社長は入社以来マンションを手がけてきたMくんを引き上げることで、マンション事業を通じて自身の影響力拡大を狙っていたのでしょう」(積水ハウス元取締役のB氏) M本部長が自信満々で進めているのだから、阿部社長の強い後ろ盾があるに違いない――このような「社長―M本部長ライン」の存在は社内でも有名だった。そのため現場では、五反田の土地取得はなかば「社長案件」として進められていく。 「ドラマと同じく、阿部社長は不動産稟議書が上がってくる前に五反田の土地を視察しています。ただ劇中では社長が視察した後、その旨を記したメモを稟議書に添付して役員に回して決裁を取り、最後に社長が決裁していましたが、実際の順番は逆で視察後にまず社長が決裁し、その後に役員たちがハンコを押していった。社長主導で進めたと思われても仕方ありません」(積水ハウス元執行役員のC氏) 社内決裁が下りた後も、引き返せるチャンスはいくつもあった。にもかかわらず、積水ハウスはなぜダマされてしまったのか。後編記事『「本物の地面師は、ドラマよりもずっと…」積水ハウス元幹部が『地面師たち』を見て感じたこと』にて、引き続き事件を振り返る。 「週刊現代」2024年8月24・31日合併号より
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