「アスリートが五輪をやりたいはワガママ」……“本音ランナー”新谷仁美の言葉力
12月4日、陸上日本選手権の女子1万mで、従来の記録を28秒45も更新する超人的な日本記録を叩き出し、東京五輪代表に内定した新谷(にいや)仁美(32)。19人を周回遅れにした走りはもちろん、記者たちを驚愕させたのが、インパクト抜群の“言葉力”だ。 【画像】笑顔がさわやかな新谷 今年1月、ハーフマラソンで日本新記録を出した際は「理由があるとすれば、ラスト5キロは漏れそうだった」と“珍発言”。以前もレース前に「好みはイケメン、金持ち、年上。世の男性を虜にするような走りをしたい」など天真爛漫なコメントを連発していた。 今回もレース後に課題を聞かれ、「スタート前に恐怖で泣いてしまうことがある。でももう32歳。泣かずにスタートラインに立てるようになりたい」と真顔で言ったかと思えば、「アフリカ勢が強いが、日本人でもやれると証明し、ギャフンと言わせたい!」と強気な姿勢も忘れない。 ただ、プロ意識の高さは際立っており、「お金で命を買われている身。どんな手段を取っても結果を出さないといけない」とキッパリ。昨年の世界選手権で11位に終わると「日本の恥」と自分を責めていた。 その経歴は山あり谷あり。岡山・興譲館高校時代は全国高校駅伝で3年連続区間賞に輝き、社会人1年目の07年に第1回東京マラソンを制覇。24歳でロンドン五輪に出場して1万m9位、13年モスクワ世界選手権で同5位入賞と、日本のエースとして活躍した。
新谷が発した、東京五輪関係者をドキッとさせる言葉
だが、右足底筋膜炎に悩まされ、14年に25歳で電撃引退。約4年間、パチンコ関連企業で会社員生活を送ったが「走る方がOLより給料がいい」と18年に現役復帰を果たす。 以前は「人に頼りたくない」と1人で練習を組んでいたが、今ではロンドン五輪男子800m代表で同学年の横田真人コーチに練習メニューを一任。才能がさらに開花した。今大会も「負けたらコーチのせい」と茶目っ気たっぷりに言いつつ、「信頼できるのは私と同じ価値観だから。他のチームメイトとも同じ目線で戦っている姿を見て、信用できると思った」と語っている。 東京五輪についても一家言持つ。今年7月下旬には、「国民の皆さんが反対するのであれば、五輪は開催する必要はないと思う」と関係者をドキッとさせる言葉を発した。五輪代表に内定した後にも「アスリートが五輪をやりたいというのはワガママ」と、率直な思いをズバッと口にしている。 炎上を恐れてきれいごとに終始する選手が多い昨今、新谷のような“本音アスリート”の出現は頼もしく、スポーツ界を活気づける力となりそうだ。
矢内 由美子/週刊文春 2020年12月17日号